9星 勝手に部活を決められても月は学校に来ない。
<今日の学準>4/30
月のお見舞いに行っても通してくれないんですけど。
まだ目覚めてないんですか?
何か知ってたら教えてください
<返答>
入院中。
地球部はしおりにないから付箋貼っとく。
付箋の内容:部室→地救部室
月と優奈が倒れた2日後。
優奈は目覚めた。目の前には白衣姿の康本優連。
「先生、なんでコスプレしてるんですか?」
「いやこれ、コスプレじゃないし。俺、お前の主治医」
「......誰が?」
「俺が」
少し考えこんで優奈は一言。
「まじか」
「おう、まじや」
ここは病院らしい。たしか月と図書室にいて......そこから覚えていない。
「お前、なんか夢とか見んかった?」
「夢?そんなの見てないですけど」
優連にいくつか質問されて、大事をとってその日は入院した。
次の日に精密検査をして、問題なかったらしいので帰ってきた。
「3日ぶりの我が家」
指紋と顔認証によって、ガチャリと鍵が開く。
「ただいま」
って言ったって、家には誰もいないのだけれど。
幸い、自分が倒れた(らしい)日の翌日と翌々日は普通に休日だったので、今日午後から出席すれば休みにはカウントされないそうだ。
早速制服に着替え、学校に着いたのは12時前。ギリギリ昼休み前だ。遅刻手続きを済ませ教室に入ったが、月の姿がない。
「本輝。今日、月は?」
久しぶりに学校で話しかけてきた優奈に驚いたらしいが、ちゃんと学級長として対応してくれた。
「いっつも学校では話しかけんなーって言ってるくせに......まあいい。小桜さんなら、今日は休みだって」
なんだ、心配してくれると思ったのに。まあ、メッセージもなかったけど。
「今週見に行くって言ってたのにごめん。今日の放課後にまた」
「優奈から誘ってくれるなんて珍しい」
なんて、カップルしかしないような会話を交わした後、2人は“学校モード”に戻る。
まあ、付き合ってなんてないし、これからそんなことになる気もさらさらない。ただ、月がジャパンホーム(あとで聞いたが、茶華道クラブだったらしい)で桃ちゃん先輩なる人物と仲良くなったように、自分もアニメ研究クラブで杉光本輝らと共に3年、いや3年と2ヶ月アニメ映画を製作しただけだ。
その映画が公開されるとのことで今週、元研究クラブのみんなで見にいくことになっていた。しかし、1人だけでは面白くないだろうとのことで本輝が勝手に他のメンバーと行かなかっただけだ。
「優奈ちゃん、康本先生が呼んでたよ?」
クラスメイトの女子が指差す方に優連が瞬間移動して来た。
「わかった。ありがとう」
端的に会話を終わらせ、優連の方に駆け寄る。
「何ですか?」
いつのまにやら無邪気な子供のように一回りも違う男子たちと笑っている優連に話しかける。
「ああ。次の時間、道徳やろ?自習にするけどお前に話あるし、先に俺の準備室行っといて」
ほら?と準備室の鍵を渡してくる。
何かやらかしたのだろうかと不安になりながらも、鍵を受け取って“康本準備室”に向かう。
“康本準備室”というのは宇宙学の先生たちが共同で使っていた準備室を優連が乗っ取ったことで生まれた呼び名で、ほぼ優連の個室と化している。
建て付けの悪い扉を何とか開けると、薄暗い光景が広がっていた。
「潔癖症のくせに掃除してないとかなら面白いのにな......」
入って電気をつけてみると、やはりそうではなかった。本棚はきちんと揃えられて隙間がなかったし、机の上には髪の毛一本もなかった。必要ないはずの冷蔵庫が轟音を立てて全力で稼働していたことや、ソファーの上に彼を覆っていたであろう毛布がそのまま放ってあったのは見なかったことにする。
「もしかしてここに......」
「住んでるかもってか?」
「うわっ」
「流石にそこまでじゃないけど、家の休眠装置が壊れたからここに泊まっとるだけ」
扉を閉めて鍵をかけ、毛布を片付けてソファーにどっかりと腰を下ろす優連。
「んで本題。優奈、『地救部』に入らんか?」
「え、そんな部活名聞いたことないんですけど?」
たしか、今ある部活は運動部が20(22)、文化部が9(12)あって、『地救部』なんてなかったはず。(※かっこ内はジャパンホーム内での活動を含めて数えた数)
内訳的には、こんな感じ。
男子バレーボール部
女子バレーボール部
男子バスケットボール部
女子バスケットボール部
男子テニス部
女子テニス部
男子バドミントン部
女子バドミントン部
男子卓球部
女子卓球部
ソフトボール部
野球部
陸上競技部
水泳部
ハンドボール部
サッカー部
ラグビー部
体操部
応援部
カヌー部
(ジャパンホーム
柔道部
剣道部
茶道部
花道部
アニメ映画制作部)
放送部
美術部
ボランティア部
吹奏楽部
合唱部
軽音部
文芸部
新聞部
演劇部
(ジャパンホーム:学校の連盟が推奨する地球にあった文化を継承・発展させるためのプロジェクトの一つ。)
やっぱり、『地救部』なんてない。
「そりゃな。だって新しく作るもん」
「は?」
「だから、作るの。
ジャパンホームは学校連盟が推奨しとるプロジェクトやから、学校とか学問を研究しとる文部委員会でもなんかしようってことになって。
宇宙学の先生達でやることになってたんだけど、俺が準備室乗っ取ったから面倒事を押し付けてきたってわけ」
「それで、部員を探してる途中、と」
「そゆこと」
「私じゃなくても良いじゃないですか」
「いや?月の入部は決定事項やから、お前がどこの部に入るかによって月が兼部するかどうか決まるやん?」
たしかに。
しかし、わざわざ呼び出してまで言うことなのだろうか?
「わざわざ呼び出してごめん」
なんて急に言ってきたからびっくりした。
「え、顔に出てました?」
「いや、優奈やから『わざわざ自習の時間潰すことか』って思っとるやろなーっと思って」
この人はエスパーかもしれない。
てな感じで会話は終了へ......は行かず。
会話に出て来たついでというか、100%知っているであろう月について問い詰めることにした。
人が入院したというのにメッセージの一つもなく、おまけに欠席するという大技をやってのけた月。ここで聞かなければチャンスは来ないだろう。
「先生」
「ん?月か?」
「人の心読まないでくれます?」
「月はな......」
「無視すんなよ」
あ......声に出てた。
「月は、入院しとる」
おい、無視すんなよ......て、入院?
「優奈が倒れたときに月も倒れて」
なんじゃそれ。
「で、まだ入院中。それに、うまくいったらあんま学校来なくなるかもしれんから、月が学校来たとき色々頼むわ」
いやいやいや?なにそれ。なんでうまくいったら学校来ないのよ。意味不明。難解じゃん。
もっと聞き出そうと思ったらチャイムなるし。なんなんだ。
私と月が倒れてから1週間。
結局、「地救部」に入ることになった。
月は、まだ退院していないらしい。
(お見舞いに行っても、一向に受付が月の部屋に通してくれないので、優連に聞くと「まだ入院中」とだけ言っていた)
今日は三連休前なので、とりあえず部活のメンバーの顔合わせの日なのだそうで。(普通の運動部とかも同じく。)
各部しおりなんてものに“地救部”が記載されているわけもなく、ファイルから走り書きのしてあるメモを取り出す。
部室は......“地救部”室?
そんなのこの学校にないですけど?
「康本先生?“地救部”室なんてこの学校にないと思うんですが」
「ああ。じゃあ、行くか」
付いて来いっていうから丁寧に3メートル後ろを歩いていたら、職員室に図書室に相談室に、あれこれ寄り道された。そして見失った。
見つかった後も理科室やら会議室やら振り回されて着いたのは“康本準備室”。
「えっと?」
「よく見てみろ」
そう言ってプレートを指差す。
今見ている側には「俺の準備室」と書いてあった。今度は反対側に回って確認してみる。
赤ペンで、しかもひらがなで「ちきゅうぶ」と書かれていた。
「つまり、ここが部室とゆうことで、おーけい?」
「おーけー。さ、みんな待っとるぞ」
振り回したのはそっちでしょと言いたかったけど、他の部員に扉越しでも聞かれたらマズイと思って我慢した。
優連が扉を足で開ける。
この先にこれからの未来があるってことか。なんて考えながら先日は無かった暖簾をくぐった。