第82話 神龍人
戦いが始まってからどのくらいの時間が経っただろうか?一時間?三十分?人数ではこちらが有利だが、如何せん連携が出来ていない。今日初めて会った人たちに連携を強要するのは酷なのかもしれない。だけどこのままでは、何れ……
勇者チーム、魔王チーム、俺チームと交互に攻撃してはいるが決定打にならない。
「オリアン!一旦下がって魔王と交代だ!リース!補助を頼む!シュベルト!魔王ばかりに補助を与えるな!デュオンにも、いや、ミリア!デュオンに補助を頼む!ルシア左右からの挟撃だ!いくぞ!」
「クックック……。まるで成っていませんね?個々の力は強いのに、それを纏め上げられない。それでは本来の力を発揮するはずがないでしょう?ほら、勇者は魔王と交代もせず補助の魔法があるからとむやみに突っ込んでくる!」
「グアッ!」
リグハルトの強力な一撃がオリアンの脇腹を直撃し、そのまま大きく吹き飛ばされる。リースに治癒を依頼し、リグハルトに斬りかかるが、そこへ攻撃を放ってきた魔王とぶつかってしまう。
「アデーレ!さっき、ルシアと挟撃すると言っただろ!」
「瞬時に変わる戦況でそのような事が言っていられるか!どけ!」
俺を押し退け攻撃を放つ魔王だが、リグハルトに一瞬のうちに距離を離されてしまう。転移か?違う、時間停止を僅かに使い移動しているのだ。停止時間が長ければそれだけ優位になれるが、俺はその影響を受けずに行動が出来る、だがこのままでは、ヤツの言うとおり全員が本来の力を発揮できないまま戦っていく事となる、どうする?何か手はないのか?全員が次の動きを感づいてくれればいいのだから、やってみるか。
「皆!それぞれの動きを見られるようにサポートに回る。これをやっている間は動けないので、ルシア!守ってくれよな?」
「うん!任せてよ!マコトには指一本触れさせないよ!」
頼もしい言葉だ。これで心置きなく出来る。
「行くぞ!世界接続:視野共有」
俺の体から細い糸が人数分出てきて、それぞれの後頭部に繋がると俺からの視点を見ることが出来る。後方から全員の動きを把握し、前線ではその視点から誰がどのような行動をするのかがわかる。これなら、攻撃が重なる事もないし、一旦下がろうとしても、そのフォローが出来る……筈だった。
「視界が邪魔だ!」「ちょっとこれじゃ余計に見え難いわよ!」「なんじゃこれは!全く見えん!」
「付け焼刃のパーティーで、倒せるほど神の力を甘く見ないで下さいね!」
リグハルトからの広範囲魔法は、勇者一行を直撃する!
「グアッ!」 「きゃあああ!」
「ミリア、シュベルト!勇者達を!アデーレとデュオン、ジルク達はリグハルトを勇者達に近づけるな!」
勇者達のパーティでなら対抗できるんだ。魔王一行だってそうだ。だが、それ以外のパーティともなれば連携も出来ず、一歩二歩行動が遅れる。視野を共有した所で無意味なのか?
「全体を見えているのはマコトだけですよ?そして今の貴方は視野を共有しているから動けない。ならば次の一手は決まっていますよね?」
リグハルトが右腕を払うと、世界が灰色の染まっていく!マズイ!今時間を止められたら……。
灰色に染まった空間でリグハルトはゆっくりと勇者達に近づいてくる。視野共有を解除し停止した時間の中で干渉しては見るが、アレシアのときは動けたが、今は意識があるだけだ。術者が違うだけで干渉にも差が出るのか?クソッ!もっと早く気づいていれば……。
「まずは勇者一行から始末しますか、やはり貴方は意識はあるようですが動けないのですね?これは好都合、そこで仲間が無残に殺される様を見物しておいて下さい」
俺の方を見ると口角を上げる。何とかしないと!干渉はまだ出来ない。そうこうしている間にもリグハルトの凶刃が勇者とリースに迫る!今だけでいい!神を超える力はないのか?クレールの子孫を守らないでどうする!
----呼べ----
声が頭の中に響く
----忘れたか?我血を受け継ぎし後継者よ----
これは……エアルゥ?
----我が牙も、皇鱗も貴様の声を待っている、時を越え世界を越え繋がるのはそれだけか?----
だけど!時間が止まってしまった中で何が出来る?
----忘れたか、貴様にかけた言葉を、貴様が神を超えるというなら、我が血はそれに答えよう。さあ呼ぶがいい----
俺は一度死んで、人間ではなく、神の化身として生まれ変わった。その俺は前回エアルゥ、龍皇の力を得た武器を貰っただけじゃないのか?後継者?俺が龍皇の?……どこまで俺は察しが悪いのだろう、自分でも呆れてくる。
干渉できるはずだ、俺には力がある。もう一度彼らの力を借りる為に、動け!
「……グ……うご……け……うごけ……動けええええええ!」
「なっ!もう動けるのですか?ですがそれでも、此処までは来れないでしょう?そこで見ていなさい!」
わかったはずだ!俺の力の一つ、龍の力を今こそ!
「堅い意志は守る為、守るものがあればこそ神をも凌駕する。来い!龍王ジルク!」
----パリーン----
ガラスが砕けたような甲高い音と共に灰色の世界が割れ、色づく世界が戻ってくる。
「漸くか、待ちわびたぞ!我が主よ!」
遠くで旋回していた銀色の龍が、俺の背後に着陸する。エアルゥの逆鱗を受け継いだのは現龍王だ。翼で俺を覆うと、服が一変する。前回と同じ緑色の道着だ。
「赤く強く滾る意志は砕けない。来い!龍皇女シュリ!」
「父様や兄様が言うから力を貸すだけ!勘違いしたら焼き尽くすからね!」
赤い炎の牙を受け継いだ彼女は俺に右側へ降り立つと、その姿を赤い刀身の剣へと変化させる。
「青く強く求める意志は揺るがない。来い!龍皇子アレク!」
「成るほど、これが我らが受け継ぎし姿、我力存分に発揮してください!」
青く澄んだ牙を受け継いだ彼は俺の左側に降り立つと、その姿を青い刀身の剣へと変化させる。
そして神の力と龍の力と人として得た技術を融合させる。これが本当に最後の手段だ。
「固有魔法 龍皇降臨」
前回のように、龍の力を色濃く出した姿ではない。恐らく普段と余り変わっていないはずだ。
「髪が銀色に変わるのは、仕方ないか。さぁリグハルト、今度は俺から行くぞ!」
軽く一歩を踏む込んだだけなのに、一瞬でリグハルトの正面まで来てしまう。大きく目を見開くその顔は驚愕が見て取れる。
「なんですかそれは!そんなものは聞いていませんよ!」
勇者に向けた剣で斬りつけて来るが、こちらは右腕で弾く。鈍い音はするが痛みもなく剣と同等かそれ以上の強度だ。
「俺も今知ったからな。皇装:龍人のもう一つ先、神龍人だ。もちろんこれも使えるぞ?世界接続:究極の一撃!」
--ズガーン--
躱されてしまうが、勇者達を掴み大きく後ろへ跳躍する。全員かなり疲弊しているのが見て取れる。
「オリアン、済まないが剣を貸してくれないか?」
「一体何をするつもりだ?」
「クレールに手伝ってもらって、アイツを倒してくる。その為の準備さ。世界接続:創造作品」
剣の構造から作り変え、白銀に輝く一本の剣を出現させる。使ったことはないし見ただけだから何処まで似せられているか不安だが。
「クレール、オリアンのご先祖様が使っていた聖剣を真似て作ってみた。本物には程遠いが、そこは神様の力で何とかして見せるさ」
「世界接続:勇者招来!力を貸してくれ!クレール!」
--やはり、俺達の絆は簡単には断たれないな!また一緒に戦おうぜ!名もなき英雄!--
クレールの剣は魔を封じる剣、それを可能にするのが聖剣:バルンダイト。持っているのは模造品だが、神の力で一撃だけ、本物と遜色なく出来る。
行くぞ!
「封神剣:封魔砂塵縛!!」




