第81話 最終決戦
魔王を眼前にして固まってしまう。威圧感もそうだが、人間の代表たる勇者とその一行がそう簡単に膝を付いて良いものかどうか迷ってしまったからだ。そんな心配を余所にオリアンは膝を付き頭を下げる。ミラとリースもそれに習い、仕方なく俺も習う。
「魔王陛下にはご機嫌麗しく、この度の急な謁見の許可誠に痛み入ります。そして人間である我らをこうしてお招きされた懐の深さ、オリアン=フォン=バルト深く感謝申し上げます」
「同じくリース=ウルトでございます。不肖ではございますが聖女と呼ばれ回復と補助魔法の心得がございます」
「同じくミラ=フォルティと申します。魔法全般を心得としており、神の背にこの手を届かせる為連続魔法の研究をしております」
さすが、高貴の出の人は違うな。俺も何か言うべきなのか?いや俺のことは知っているだろうし、言ったところでこうは決まらないだろう、リースから小声で(いいから何か話すべきです、勇者と魔王の折衝の場ですよ?)こういわれては仕方が無い。
「マコト=レイトバードと申します。私は……「もうよい。面を上げよ」……途中で切られてしまった。
「先ずは良くこの魔王城まで来た。私が現魔王のアデーレだ。側近のシュベルトにはもう会っているな?こちらも紹介をしよう。獣王のデュオンとその息女ルシア、彼らは魔法は使えないが、特技という技術を使い剣や槍、弓に至るまで武芸を得意とする種族だ。そして龍王ジルク、その嫡子アレク、息女シュリ。言うまでもなく最強と名高い龍の一族だ。固有魔法という龍族だけの魔法を使える。最後は、つい先日傘下に加わった、妖精女王率いるエルフの一族。多種多様な魔法と狩猟や工芸など手先の器用な一族だ、女王から受ける恩益はエルフ独自のもので、その力を何倍にも膨れ上がらせるという。これが今の魔王軍の幹部達たちだ」
紹介をされた者は一歩前へ出て、魔王と勇者に一礼し元の場所へ戻る。さすが獣王の娘だけあって、普段の軽い感じとは大違いで、まるで初めて出会ったときのようだ。
----ドクンッ----
なんだ?この感じ?心臓が大きく跳ねる……一瞬だったが、何かを取り戻したような、懐かしい感じがした。既に収まっており今は普通だが、一体なんだったんだ?
「では、互いの紹介も済んだところで勇者様よりご提案があるそうです。宜しいですね?」
アデーレの返事を待たずシュベルトはオリアンへ回答を促す。
「魔王陛下、我々は現在……「よい、判っている」……
またもや有無を言わさない言葉切り。なんだろう?機嫌が悪いのか?シュベルトは咎める様子もなく、アデーレは玉座を立ち上がり、こちら側へ降りてくる。
「リグハルトと戦うつもりで、その先に新しい世界を作る為我々と協力したいと、そういうのであろう?シュベルト以下様々な者から事情は聞いている。それについての協力はするつもりだ。リグハルトは少々勝手が過ぎた。いつまでも野放しには出来ない。……だが!勇者、聖女、魔法使いは良しとしよう、互いを知らなければ、解り合えるものではないからな?何が言いたいか、判るだろう?マコト=レイトバード!」
少しでも俺の助けになればと思って行動してくれた結果が、あれではな。そう思われるのも無理はない。強い意思を赤い瞳に映し出し、真っ直ぐに俺を見てくる。あの時は怖かったな、自分に無いものを絶対の自信を持つこの瞳が。
「離れている間に何を得たか何を学んだか、それを証明して見せろ、信頼を裏切った者が何処まで信頼を取り戻せるようになったかを見せてみろ、そういうことか」
「少しは、マシな目になったじゃないか?さあ貴様はどうやって力を見せる?お勧めはもっともシンプルでわかりやすいコレだろう?」
そういうと、右手の拳を眼前に突きつけられる。見るからに魔力が膨大に込められており当たれば即死じゃ済まない、粉々に砕け散るだろう。それよりもこの戦いを受けるべきなのだろうか?出来れば受けたくないのだが、助けを求めルシアを見れば、大きく頷き親指を挙げている……わかってないか……。ミリアを見れば優しく微笑み両手を組み胸の前で祈る姿勢を見せる……君もわかってくれないのか……。
「わかりました。元々は俺が撒いた種ですからね、自分で刈り取るくらいのけじめは付けましょう。ですが魔王様は本気で当てないで下さいよ?死にますので。互いに完全に一撃が入る瞬間で止めてそれで仕舞いです。それがお受けする条件です」
……しまった!言ってから気付くとはなんて馬鹿なんだろう。勇者達も側近らも唖然としている、魔王はフルフルと体を震わし怒りに堪えるように俯いている。
「いい度胸だ……散々逃げ回っておいて……条件だと?シュベルト!皆を上層へ転移させろ、下層では戦いの余波で思わぬ怪我をする事もあるかも知れん。久々に頭に血が上ったわ!ここで貴様を殺し勇者らとリグハルトを討つ。それで仕舞いだ!」
「いや……今のは言い間違いで……その方法がベストで安全じゃないかと……」
「もう遅いです。久々に魔王様にも暴れてもらわないと穏健魔王等と不名誉な二つ名は似合いませんからね、それでは皆様、こちらへお集まりください。謁見の間は今このときを持って放棄します上層へ結界を張ります。戦いの一部始終は観覧できるようにしてありますのでご安心を」
シュベルトめ、随分と訳のわからない魔法を使うじゃないか、何が観覧できる魔法だ。ミリアもルシアも笑顔で手を振っている。ねぇ……手合わせなんて可愛いものじゃ既に無くなっている事に気付いていますか?
「さぁ邪魔する者は誰もいない、始めようか!先に言っておくが私は魔法が一つしか使えない。身体強化のみだ。だが有り余る魔力を打撃に乗せる事で威力を上げる事ができる、私が使える戦法はそれだけだ。貴様は異世界を渡り、様々な力を得たのだろう?私にはそれが羨ましかった。馬鹿の一つ覚えみたいに一つしかできない私と、様々な力を持ちながらもそれを上手く使うことが出来ないお前。どこか似ている気がしてな出来る事なら何とかしてやりたい、そうする事で私も少し成長するんじゃないかと思っていた。結果は知っての通りだ。お前は挫折し私は見限った。いつからかお前を強くする事が私の目的へと変わってしまったようだ。答えを教えては何もならん。だからこそ切欠の中から本物の強さを掴み取って欲しかった、その役目は私でありたかった、そう思うよ」
驚いた。あの魔王がここまで考えて行動していたなんて、自分が物凄く小さい存在だと感じてしまう、知らず知らずのうちに涙が止まらなかった。こんなにたった一人のフラッと現れた見ず知らずの亜人種ことを考えてくれる王がいるだろうか?
「おいおい、始まる前から泣き言か?それは許さない。さぁお前の力を見せて見ろ!」
そうだ、泣き言なんていっている場合じゃない、今ここで力を見せる事こそが魔王への最大限の返礼だ。目を伏せ大きく息を吸いゆっくりと吐く、本当にこの世界に来れて良かった。力を得られたのもそうだが、素晴らしい出会いがあった。
ゆっくりと目を開ける。構えたままの魔王は強く、美しい。俺もいつかはああいう風になりたいな、本気でそう思える。魔王だけど……
「アデーレへの感謝と尊敬と返礼の全てを、この一撃で示そう!世界接続:究極の一撃!」
アデーレへ向かい走り出す、間合いの外から大きく跳躍する、彼女も魔王だ、わかっているはずだ戦い傷つきその隙を狙う影に。アデーレが一瞬で俺の後ろに回り込むと右足に手を添えてくれる!その瞬間に力強く手を足場にして玉座目掛けて拳を振るう!
----ズガーーンッ----
轟音と共に玉座が粉々になり舞い上がった煙が徐々に形を成していく。
「おやおや、同じ手は通じませんか?完全に気配は消していたはずですけどね、さすがと言っておきましょう」
「ふん!貴様の考え等お見通しだ、僅かながら玉座の背後より気配が漂ってきたのでな、こうして芝居をうった訳だ!中々に迫真の演技だっただろう?」
え!? 嘘? あれ演技だったのか? 俺が気付いたのはついさっきなんだが……感動して流した涙を返してくれ……。
「魔王様が玉座から立ち上がったときに、気付きましたよ?一旦転移で上層へ行き勇者殿達にも補給をして頂かないといけませんでしたからね、そうそう、魔王城自体に結界を張りました、リグハルト様?逃げられませんよ?」
シュベルトに連れられ、再度全員が玉座の間に集まった。それぞれの思惑はあれど、今はこの戦いに向けて全員が望んでいる、これなら必ず勝てる!例え神の力を悪魔が宿していたとしても!




