第7話 村でのいざこざ
「お!ミリア今日も、お疲れ様。早く帰ってお母さんを安心させてあげな」
村の入り口にいる男性に声を掛けられる。ミリアもそうだが男も凛々しく佇んでいる。腰に剣を差し手には木弓、矢筒も背に背負っていた。
「ありがとうございます。ロズさん今日は珍しくお客さんがいますよ。」
「客?偶に来る商人じゃないのか?」
ミリアの後について来る男を見る。緑の服に赤黒い小手、腰の剣は業物に思う。何より男が黒髪黒目であった事に驚いた。
「ミリア!ヤツは人間だ!直ぐに族長に知らせてくれ!」
素早く矢を構え射る。と同時に魔力込め技法を放つ。
「火の精霊よ!我が敵を焼き尽くせ!」
矢の着弾と技法の二重攻撃。勝利を確信した。
「はっ!たかが人間ごときが!思い知ったか」
「当然そのセリフはフラグだな」
炎の中から男が現れ赤い剣を喉元に突き付けられた。
「で?次のセリフは、くっ殺せかな?生憎とあんたじゃ需要がない」
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「マコト!ロズさんも!止めて下さい!彼には判定の技法を掛けてあります。敵意がない人ですよ。マコトも剣を降ろして」
ミリアが間に入り違いを押し離そうと顔を真っ赤に力を込める。その仕草ですら絵になってしまうのが美女と呼ばれる人たちの特権だろうか。
「攻撃されたからって言えば聞こえはいいが、申し訳ない。ロズさんだっけ?あんたの言う通りの人間だが敵意があるわけじゃない。森で迷った所をミリアのおかげで此処まで来れた。暫く宿を借りたいと思っている」
俺は剣を収めながらロズに向き合う。
「ミリアがそう言うなら、信用しよう。マコト殿だったか。いきなりの攻撃大変失礼した。私はロズ。滞在は族長の判断になるがな」
ロズは笑顔で右手を差し出す。イケメンは何をしてもイケメンか。
「それじゃロズさん、お爺ちゃんのトコに行ってくるから、マコトの事よろしくね。マコト、ロズさんと此処で待っててね、もう喧嘩したらダメだよ?」
ミリアが手を振りながら駆けていく。
やはり素か……恐ろしい。
「さ、マコト殿暫しこちらでお待ち願おう。たいした持て成しが出来ずに申し訳ない」
ロズについて行き小さな小屋に通される。見張りの休憩所だろうか机に椅子、寝台以外は何もない。
「殿なんて呼ばれる柄じゃないので敬称は不要です。堅苦しい言い回しもいりませんし苦手なので。それよりロズさん。ミリアがお爺ちゃんと言っていましたが、彼女は族長のお孫さんですか?」
「判った。ミリアは族長の孫で間違いない。私にも普段通りで構わない。堅苦しいのが嫌いなのはお互い様さ。」
「それともう一つ。黒髪、黒目は珍しいですか?ロズさんはそれで私を人間と見抜いたようですけど?」
「珍しいな。ただ、人間にしか現れない特徴だから、気にする程ではないだろう。私だけ口調を変えるのは変だろう?君も普段通りで構わないぞ」
「そう言って下さるのは、ありがたい事ですが、エルフは長寿と聞きます。年長者を敬うのは人間も一緒ですよ」
ミリアには言わなかったエルフの単語を初めて出した。相手は十中八九エルフだろう。ミリアを感じた時の気配。人ではないが魔物でもないがその容姿を見れば納得だ。
ロズの表情が強張る。こちらに敵意はないが、エルフと知られた事で相手の行動が変わるのは仕方ない。他種族を嫌う傾向にあるのはどの世界でも大差なかった。
「確かに。君たち人間から見れば我らエルフは長寿だろうな。それで?エルフと判っていて何用だ?敵意がないのはミリアから聞いている。滞在し仲間にでも知らせるか?あの攻撃が全力だと思わない事だ。我らの弓や技法が君を狙っている事を忘れるな」
妥当な反応だろうな。その気になればいつでも殺せるぞと脅している訳だ。滞在が許可されても監視付きになるのはいい。下手に信用される方が恐ろしい。
「正直エルフと認めた事は意外でしたが、次の出発の目星がつけば、明日にも出て行きます。出来れば皆様に伺いたいこともありますので、それを踏まえて二、三日といった次第です。因みに、仲間はいませんよ。信じられないでしょうけど」
せっかく良好な関係を作れそうだったが、こうなっては仕方ない。良好であればあるほど別れが辛くなる。いずれは自分の事を忘れるのだからこのくらいの距離感が良いのだろう。
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「守ってあげるから!私が!私達が!命を賭けて!」
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あの言葉を言われたのはいつだったかもうハッキリと思い出せない。所詮記憶なんてその程度だ。
だから多くは望まない。望むべきじゃない。
「なんか……暗いね二人共。どうかしたの?」
ミリアが入ってくるなり怪訝な声色で聞いてくる。
「何でもないよ。それよりミリア、族長はなんて?」
「うん。取り敢えず話は聞いてくれるみたい。ただ滞在を許可するかどうかはマコトに会って話を聞いて見てからじゃないとわからないって」
先ずは話を聞いて見てからか、ただそこまでの理由は無い。聞きたい事は2つそれ以外は少しでも休みたいのが本音だ。正直に言えば断られそうだが、断られたらそれでいいか。ミリアへの礼をしてからなら1日は許可をくれるだろう。
「そうか。ではあまり待たせるのも悪いからな。すぐに伺うよ。ロズさん、ありがとうございました。お言葉肝に命じて置きます。それでは失礼します」
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深々と頭を下げマコトと呼ばれた男は部屋を出て行く。
私も言わずさっさと行けとばかりに手のみを動かす。オロオロしているミリアに
少々毒気を抜かれた気がするが、この子はそういう駆け引きとは無縁の存在なのだ。
「早く行ってやりなさい。族長の家まで辿りつけないぞ」
上手く笑えていたかはわからないがミリアの表情からは出来ていたようだ。
「うん。ロズさん、ありがとう。またね」
もう日も暮れ、夜の帳が下りる頃。夜間は魔物が活発に動き出すので見張り役は気が抜けない。
あの人間の目的が不明なのが気になるが、自分以外は満足に戦える者がいないのも事実。
「いつか我が同胞達を奪還して見せる」
見つめる森の先には
東大陸の大部分を支配するバルト王国があった。