第74話 決戦:アレシアの正体
王都の入り口を抜け、更に進む。後ろを振り返ればやはりオリアンが追いかけてくる。そろそろいいか、暗闇の草原の先にある森へ入り込む。木の上へ移動し、息を整え獲物を待つ。天啓を受けてから、まだ数ヶ月、戦闘訓練はしてきているだろうが、真正面から戦う敵ばかりとは限らないぞ、王子様。
「それで隠れたつもりかい?それとも僕を、天啓の勇者を過小評価していないか?」
木の陰から様子を伺う。完全に後ろを取っているが本当に居場所が判っているのか?待てよ?そう言えばアレシアを最初に見たときも同じような感じだったな……
「ほらね?見つけた!」
オリアンは振り向きざまに剣を振るうと、剣気となって木々をなぎ倒し、こちらに向かってくる!本当に見えているのか。
慌てて木を飛び移り、オリアンの左側へ移動するがそれも見破られているようで、しっかりと視線が合ってしまう。
「今度は左、どうした?アレシア達から引き離したのは僕ならば勝てると思ったからだろ?小細工ばかりじゃ勝つどころかまた皆集まってしまうよ?」
やはり不意打ちは通用しないか。どれほどの才能があるのだろう?恐らくもう挑発も通用しない。一度の失敗は再度繰り返さず、その先に進む事ができるなんて羨ましい。だけど、初見の技を見切れるとは思えない、となれば俺の勝機はそこにしかない。才能は無いがそれだけの死線は渡り歩いてきている。
「漸く観念したかい?追いかけっこは子供の頃に卒業したんだ。いい加減終わりにしよう」
オリアンの前に姿を見せると、大きく息を吐き刀を構える。左足を引き腰を落して体を捻る。お願いします、全てとは言わない、今この時だけは貴女の力を貸してください。
「神坂流剣術、いざ参る!」
一気に間合いを詰めると、右足を大きく踏み込み刀を抜く、狙うはオリアンの右手。
----ギィィィィィン----
受け止められたか、だがこれで終わりじゃない。オリアンの押す力が勝ってくる、力も向こうが上か理不尽だな。まだ次がある、タイミングよく押す力が入るときに一気に力を抜けば相手のバランスが崩れる。アレシアの時とは違う、全力で行くと決めたんだ!
「炎よ、集え、下級火炎魔法!」
地面に向かい魔法を放てば大きく砂煙が舞う。一度距離をとり煙に隠れる、あのまま追撃すれば確実に殺されていた、剣を離した左手には確実に魔力が込められていた。
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「へぇ。追撃が来れば魔法を撃つ予定だったけど、わかるんだね、見事と言っておこうかな」
僕の体勢を崩して、追撃すると確信して左手に魔力を溜めていたけど見破られたかな?それでも彼の攻撃は防げないほどじゃない。アレシアの言う通り落ち着いて戦えば苦戦するほど強くも無い。舞い上がる砂煙では姿は見えないが、感覚、言うなれば気配でわかる。
今は正面にいる。腰に手をかけた?もう一度初撃の技か?確かに速かったけど反応できない速度じゃない。煙が形を変える、そこから突進するのが見え見えだ。
「同じ技とは芸が無いね?なんとか流って言うのも程度が知れるよ?」
迎え撃つ為剣を振るうと、あっけなく地面に伏せた……これは?木の枝?
「神坂流はそんな安い技じゃない、最初はただの斬りだよ。これが神坂流だ!上翔下衝撃!」
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神坂流なんて剣術は無い。これも全て彼女自ら考え編み出して行った技だ、ただ闇雲に刀を振るうのではなく技があった方が それっぽい というそれだけの理由だ。下段からの斬り上げと斬り下ろしの連続攻撃は上に翔び上段からの衝撃。なんて安直なと言ったら、数回この技を叩き込まれたのは良い思い出だ。
斬り上げは躱されたが、斬り下ろしは確実に肩に当たりオリアンの膝を付かせる事に成功する。次はきっと通用しない、ならばもっとだ初見の技ならいくらでもある。もう一度距離をとる、不思議そうな顔をしているな?何故追撃しないのかと思っているだろう、それでいい、もっと迷えセオリー通りに攻めていくほど勇者を甘く見ていない。
「炎よ、集え、下級火炎魔法!」
もう一度砂煙を上げる。今度は鞘と刀を連続して投げる、鞘を躱せば刀が襲う2段構えの投擲。折込済みなのは刀も躱される事。当然その後も考えてある、遅れながら自分も接近して行く。
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滅茶苦茶だ!彼は剣術と言いながら、放ってくる技はどれも理にかなっていない。肩への衝撃はそれなりに強かったが、勇者だって治癒の魔法が使える。それにまた砂煙か、追撃を行わなかったのも不自然だけど距離が離れたのなら、時間が稼げる。肩への治癒を行うと、落ち着いて剣を構える。今度はどこから来る?大丈夫、落ち着け、気配を探れば正面にいる。
砂煙から黒い物体が飛んで来る、投擲で気をそらせるつもりか?剣で振り払うと、その影に隠れていた刃が襲いかかって来る!
「ック!でも、通用しない!」
身体を捻り刃も躱す、武器まで投擲するなんて勝負を捨てたのか?一瞬だけ彼から気をそらしてしまった事に気付くと、背後から聞きたくもない声がした。
「さすが、けどそれも承知の上だったら?今度は逃さない、リースの補助ももうないぞ?」
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やはり、鞘も振り落とされ刃も躱されるが、勇者の背後を取る事ができた。補助魔法は無限じゃない。効果が切れればかけ直しをするし、術者から遠く離れれば効果も薄れるはずだ!これで決めろ!情けをかけるな!
----参式 龍壊・双打衝----
背後から鎧に右手を当て、追撃を左手で式を放つ!鎧が破壊され勇者が吹き飛ぶ、手応えはあった。これで無傷だったら正直お手上げだ。刀を拾い、ゆっくりと勇者に近づく。呼吸はしてる、だがどうする?命を取るのか?相手は殺す気でいるが、今ならば、だけど、見逃した後を考えればここでとどめを刺すべきだ。
刀を振り上げると、足元が大きく揺れる。地震?勇者の周りの地面が盛り上がって行く!
----ズガーーン!----
周囲の土が勇者との間に壁を作る。魔法か?となれば……横を見れば闇と同化しそうな程黒いローブを着た人が肩で息をしながら、ゆっくりと近づいて来る。
「今度は君が相手か?ミラ、俺も死ぬわけには行かないんだ。手加減はしないぞ?」
ミラは大きく息を吐くと、いきなり笑い出す。
「アッハッハッハッ!馬鹿じゃないの?アンタが強いのはわかってる。オリアンを倒しちゃうんだもの私個人が勝てるとは思わないわ」
「なら、なんでそんなに余裕があるんだ?」
勝てるとは思わないなら、時間稼ぎか?ここまで追って来て肩で息をするくらいだ、体力的にも辛いはず。なら何か策があるのか?ミラはゆっくりと自分で作った壁に手を触れる。
「なかなかいい出来でしょう?上級魔法でも術者によって強度が違うのよ。ところでアンタはなんで魔王側についてるの?やっぱり人間に憎悪とかがあるわけ?メクレンであった時はそんな風に見えなかったけど」
「そんな事はない。納得できないだけだ、人間も亜人も同じじゃないかって思うんだよ。色々あって魔王側に世話になったからここにいるが、戦うのが本意じゃない。できる事ならお互い助け合って生きていけるんじゃないかって思うんだ」
「アンタがどう思おうと、勝手だけどね。そうだ!久々の再会に面白いものを見せてあげるわ。ついこの間完成した魔法なの。言ってしまえばオリジナルの魔法ね。ビックリするわよ?」
ミラは壁に手をつけたまま、楽しそうに話す。なんだ?何がしたい?オリジナルの魔法なんて作れるのか?
「行くわよ!アレシア!」
----置換転移魔法----
ミラの身体が透けていき、代わりにそこに現れたのは!?
「位置を変える魔法だって、凄いわよねあの子。さあ、続きをしましょう。今度は逃さないわ。知ってるんでしょう?私の正体を。だからこうやって話すのは初めてね。後輩君?さあ復習よ、ちゃんと覚えているかしら?適合者にあった時に言うセリフを」
アレシア=ベイウッド、産まれながらの勇者そして、俺の前任者……
「初めまして先輩。前任者に会うのは初めてですよ。決まったモノはないでしょうに。貴女の持つ力は世界を変えてしまう程、強力で危険なものです。本来の持ち主に返すのが俺の役目、返して頂けますか?その代わりに貴女の目的に力を貸しましょう」
「断ったら?」
「力ずくでも」
「力を渡す方法は?」
「貴女が力の放棄を望んでくれれば」
「それだけ?」
最後の方法まで言うのか?この状況で?非常に恥ずかしい。
「あ……貴女と愛情を育み……その……」
「アッハッハッハッ!わかってるじゃない。さすが後輩、じゃあ次、私は特に決めてなかったけど、君の言う旅行者同士が出会ってしまったら?」
「戦う事は避けられません。旅行者は」
「「常に一人だから!」」




