第6話 道中にて
「でも、案内は必要なかったかな?」
ミリアルがクスクスと笑いながら、隣を歩く俺を見上げる。頭一つ分程大きい為自然と上目遣いになるので、話し掛けられる度にドキドキしてしまう。
(あれ?何?こういう話し?剣と魔法のファンタジーでこうなるの?冒険系じゃないの?恋愛ファンタジー?
いや待て、恋愛ファンタジーで世界を変える程の力って何だ?…まさか…ハーレム!?)
心中は混乱を極めている。
(ならばハーレム王に…って違う!全くわからない。でもそうだとしたら彼女は攻略対象か?)
「眉間に皺寄せて、本当にどうしたの?」
俺の前に立ち顔を覗きこむ。
「いや……それより、案内が必要ないってどういう意味?」
恥ずかしそうに、そっぽを向きながらミリアルに聞く。
「だってあそこの場所から、真っ直ぐ進むと村に着くから会わなくてもそのうち着いたんじゃない?」
なるほど。ある程度道は合っていたのか、しかし案内があるのと無いのでは大きく違う。例え間も無く村に到着するとしても。
「それでも案内があるのとないのとじゃかなり違うよ。ところでミリアルはあの場所で何をしてたの?邪魔したのなら、悪かったね」
「私もそろそろ切り上げる予定だったから邪魔なんかしてないよ。あの場所では、貴重な薬草が採取出来るの。数は少ないけどね。もっと奥なら数も取れるけど、魔物が出るしね」
ミリアルが俯く。こう言っては何だが俯き加減の顔もまた良い……って違うだろ!
ブンブンと頭を振り大きく息を吸う。
自分はこんなに惚れ易かったか?違うだろ!目的を果たす為だと自分を叱咤する。
「ミリアルって技法が使えるのに?魔物が出てもドーンと出来るんじゃない?」
「技法は使えるけど、この森では魔物が複数出るの。私は一回でも魔物に遭うとそれだけで魔力がなくなって帰れなくなるから、奥まではちょっとね……それと、私の事はミリアでいいわよ、村でもそう呼ばれているし、ミリアルって言いづらいでしょ?私達の間で名をそのまま呼ぶのは家族だけだからね」
そうだったのか。世界が違えば習慣なども変わってくるのは当たり前。
この世界の魔力切れの症状は知らないが、全身の力が抜ける様で歩く事もままならない前回の魔力切れは辛かった。魔物の出る森であれば当然か。
「余り世間に詳しく無くて、失礼があったら申し訳ない。俺もマコトで構わないから」
「うん。そうするねマコト。あ!ホラ!あそこが私達が住んでいる村だよ」
ミリアを指す先には小さな村が見える。囲いがあるのは魔物対策であろう。周りが森に囲まれ簡素な村というのがピッタリなようだ。物見台らしき物もある。
「ゆっくりして行ってね。外から人が来るなんて滅多にないから、みんな喜ぶよ」
少し小走りにミリアが駆け出す。うーん走る姿もまた……再度ブンブンと頭を振る。何をしても絵になる人だな。
「おーい!早くしないと置いて行くよ!」
少し先でミリアが大きく手を振る。
「まさかあれ……素でやってんのか?だとしたら怖いな。恋人とか旦那がいたら俺は殺されそうだ」
ミリアの後を追いつつある覚悟を決めざるを得なかった。