第66話 策略
いつものように聖域に来て、エアルゥの亡骸の前で一人物思いにふける。アレクの話からこの世界が、前回の世界の遠い未来である事は納得できる部分もある。特にエアルゥが居たのだ納得せざるを得ない。異世界ではなく時間を行き来するのか?ならば何故クロノスは異世界と言った?どうもそこが判らない。
「このままっていう訳にも行かないし、戻るにしても宛がない。参ったね……詰んだかな?」
仰向けに寝転がる。聖域の空気は澄んでいて考え事をするのには丁度いいが、どうもやる気が起きない。
「相変わらず腐っていますね。余り対面したくなかったですが事態が事態です。我慢すべきでしょうね」
声のほうを向くと、魔王側近のシュベルトが立っていた。だが、なんだろう少し色が薄く見える。
「至急魔王城へ来てください。拒否権はありません。龍王ジルク様にも伝令を飛ばしていますが、貴方からもジルク様へ伝えてください。魔王城に来たからといって殺される事はないので安心してください。それでは」
用件だけ伝えるとシュベルトの姿が消える。何だろう伝令にも魔法があるのか……事態……何か起きているのか?龍王の元へ向かい走り出すと、里全体が慌しいな、近くの住人に聞いてみる。
「なぁ、何かあったのか?随分と慌しいが」
「お前知らないのか!?勇者だよ、勇者が現われたって大騒ぎだ、何でも二人目の勇者って話だ」
住人達は大慌てで、里全体を砦のようにするのだろうか石を積み、柵を立てている。俺も急いだほうが良さそうだ、シュベルトには腐っていると言われたが、毎日トレーニングは欠かしていない。魔力を足に集め一気に開放し急ぎ龍王の下へと走る。
「マコト殿!丁度良かった、呼びに行く所でした」
こちらも丁度のタイミングでアレクに出会う。既に知っているようで青を基調とした服に胸当てや小手を付け武装しているのがわかった。
「アレクさんも呼ばれたのですね。俺にも側近の伝令が来ました。ジルク様と共に魔王城へ来るようにと」
「はい。我々龍族は父、シュリ、そして私の三人で城へ向かいます。マコト殿も準備が出来次第里の入り口に。そこから城へ飛んでいきます」
準備と言われても特に持ち物もないので、そのままアレクと共に入り口へ向かうと、銀色の龍と赤い龍がこちらを向いた。アレクも人化を解き龍へ戻ると、俺を乗せ魔王城へと向かう。胸が高鳴るのが判る、好奇心でも高揚感でもない。臆しているのだ、勇者と戦う事になる事に……
魔王城に着くと、再度人化しジルクの後に続く。随分と久しぶりの魔王城だがほぼ変わっていない。一際大きな扉の前に武装したメイドが二人門番のように立っている。正面まで進みジルクが口を開く。
「龍族が王、ジルク、嫡子アレク、シュリ……と人間を連れ参上した。通されよ」
やはり確執は消えないか。それも自分が撒いた種だ、受け入れるしかない。赤いカーペットを進み玉座に向かい右側へジルクらと共に佇む。こちら側には獣王、龍族。反対側には悪魔王リグハルトとシュベルトが立っている。一瞬だけ魔王と目が合うが興味無さそうに逸らされてしまう。
「揃ったな。シュベルト話せ」
「はっ。先程地鳴りと、王都にて人間で言う天啓が確認されました。我々が知る限り勇者は一人のはずですが、もう一人現われたと考えるのが自然です。つまり二人の勇者と戦う事になると言う事です。つきましては各王と協議をする為集まって頂きました」
里で聞いた話と合致する。アレシアと同格の力がもう一つ現れたと言う事は、適合者である可能性が高い。だがアレシアと一緒に行動するとなれば、話す機会もないだろう。
「リグハルトは何か知っているのだろう?」
魔王からの声に彼が胸に手を当て、腰を折る。
「さすがは魔王様。我が眷属を王都へ忍ばせてございます。報告によれば勇者として天啓を受けたのは王国第一王子オリアンという者。今は元……いえ最初の勇者の元、剣や魔法の指南を受けているとか、近いうちに攻めてくるかと思われます」
王子様か……会った事はないが、アレシアと同格と見ないと苦戦しそうだ……まるで戦う事が前提で話が進んでしまっているが、俺で役に立つのだろうか?そもそも魔王側に味方することが決まってしまっている事に気付く。
「俺が行って仕留めて来よう!勇者と言えど人間だろう?ならばこの獣王が行けば事足りる」
「デュオンよ、それはならん。勇者一行は手強いと聞く。あちらは集団、こちらが個人で戦っても勝てる保証はない。集団には集団で当たるのが上策だ。それにこちらには今回の原因そのものがある。そうだろう?シュベルト」
魔王から鋭い視線を突きつけられる。そうだ。恐らく勇者が二人と言うのは俺が此処に居るからだ。王子様の天啓は史上で不可避なのだろう。となれば、アレシアは……
「はい。マコト=レイトバード。彼は異世界、いえ正確には過去からこの時代へ来た者と推察します。神の力で未来へとやってきた理由は話していますが、それが真実とは限りません。もしかしたらアデーレ様を倒しに来た可能性……つまり三人目の勇者ではないでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ!俺は勇者なんかじゃない!アデーレ……いや魔王様の足元にも及ばない実力だ。勇者であるはずがないし、そもそも、それが目的なら何かしらの方法を既に使っている!それに……俺の戦う相手は……」
どうする?ここで言ってしまうか?だが、確証はないし此処が未来であるのなら、俺は……クレールたちが残した者と戦うのか?そんな事ができるのか?アレシアが一人になれば、糸口も掴めるだろうが無理だろうなリースやミラそれに本物の勇者が居るのであれば、二人で会うなんて事ができる筈がない。
「どうした?戦う相手は?この魔王か?貴様程度、瞬きをする間に貫く事もできるぞ?」
玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を下りてくる。そんな中、悪魔王が声をあげる。
「それでは来訪者よ、貴方が勇者の実力を見てきなさい。今の発言から貴方が戦う相手は、我々ではなく勇者、若しくは勇者一行の中にいるのでしょう?そこで死ねばそれまで。生きて帰れれば貴方の戦う理由とやらも無くなるのでしょう?ならば貴方が適任です。出来ないと言うのならここで死ぬだけですよ?」
これが八方塞というヤツか。拒めば魔王に、向かえば勇者に、逃げるなら向かう選択肢しか……つくづく嫌になる、何故逃げる選択肢が出てくるんだ……やはり此処が限界か……
「判った。俺が行く。だがどうやって勇者と戦う?いきなり乗り込んでも騎士に捕まるだけだ。悪いが無差別に殺すなんて事はしない。それをするなら今此処で魔王様の手に掛かるのを選ぶ」
「そこはこのリグハルトにお任せあれ。我が眷属を王都に忍ばせていると申しましたよね?私に考えがあります。今はお話しすることが出来ませんが、これなら必ず勇者と一戦交える事になるでしょう。これ以上は貴方が知る必要のないことですよ?マコト=レイトバードさん」
一度俺だけが謁見の間から出され、後は魔国の重鎮達での協議となった。
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リグハルトの意見が採用され、俺と彼で王都へ向かう事となった。準備に少し時間が掛かるようで出立は七日後となった。逃げ出さないようにする為だろう、部屋の前には武装したメイドがおり、しっかりと扉の前を固めている。窓にも格子が組まれ、そう簡単は外に出られないようになっている。
「いよいよ、カウントダウンか……結局何も確証が無かったな。異世界、過去、未来、何も判らないまま終わるのか……判らない……違う。判ろうとしなかった、考えてこなかった、その結果だ。むしろ今まで良く生き残れたと思うよ。クレール、お前はなんと言ってくれたっけ?それすら思い出せないよ。アシュリー、君たちが守った世界を、俺が壊す事になるなんてな……」
最後の悪あがきかもしれない。それでも悔いの無い最後を迎える為に、もう一度良く考えよう。エアルゥの言葉、受け継がれたモノ、そして神の力について……




