第5話 ミリアルの視点
-------ミリアル視点------
その日も私、ミリアル=バーラントは薬草の採取に森へ来ていた。薬草採取は村に偶に来る商人さんが買ってくれるから資金源だし、何より大好きなお母さんの為だ。
お母さんはある出来事がきっかけで徐々に衰弱する呪いにかかってしまった。その進行を抑える事が出来る薬草が此処にある。数は多くないが資金集めと症状緩和に最適なので、私は今日も森へ来ている。
勝手知ったる森だ。奥へ行けば群生しているらしいが、魔物も出るし人間に捕まったら奴隷として売られてしまうと聞いた。群生している場所は人間の国から近い場所らしく禁忌の場所となっている。
「だいたいこんな物かな?」
籠に入った薬草を見て、切り上げる。そろそろ夕刻だし、ちょうど良い。多く獲り過ぎると、此処の場所では採取出来なくなる。奥へ行けないので、ある程度で諦めるしかない。
パキッ
木が折れる音を聞き振り返ると、そこには男の人が立っていた。緑色の服に赤黒い小手。腰に二本の剣を差している。黒い髪は珍しい。まずい!人間⁉︎咄嗟に右手を翳す。
「誰?」
男の人は両手を上に挙げる。イマイチ何だが判らないが、そこから魔法を使うつもりだろうか。だがこの距離なら私の方が発動がはやい。
「驚かせて悪い。怪しい者じゃない……って……」
そこから先の言葉が無い。口を開けたまま腕を挙げている格好は、何だが可笑しい。
笑いそうになるのを堪え、なるべく威厳を込める
「何?言いたい事があるんじゃないの?黙っているのは、それらしい言い訳を考えているから?」
怪しい者じゃないって怪しい人なら誰でも言うでしょ。ただ悪い人じゃない気がする。あんな変な格好は怪しいけどね。
「あ……いや……スゲー綺麗だからつい……言葉がでなかったからで……」
はい⁉︎何言ってるの⁉︎綺麗⁉︎私が⁉︎何だか頭の中がごちゃごちゃになる。確かに村の人達からは綺麗だねと言われるが、小さい村だ。皆が家族みたいに接している。自分の子供と思うのも不思議じゃない。だから家族の挨拶みたいなモノと受け取っていたが、初めて会った人から言われるのは、何だが物凄く恥ずかしい。
「そ……そんな事は聞いていない!話を聞いて欲しくば、腰の武器を放りなさい。後、そこから動かないで。それと何を企んでいるか、知らないけど抵抗はしない事ね。」
何だが早口になってしまったが相手には伝わったようだ。腰から剣を抜き、二本纏めてこちら側に投げた。鞘もそうだけど立派な剣だと思う。それにしても両手を挙げた意味がわからない。何だろう……魔法じゃなかったみたい。
「改めて、話を聞いてくれてありがとう。俺はマコト=レイトバード。訳あって旅をしているんだが、森で迷ったらしくて出来れば人のいる所へ案内をお願いしたい」
「マコト?珍しい名前ね。レイトバードの家名も聞いた事がないし、嘘をつくのはお勧めしないわ、すぐにバレるわよ?」
嘘だとしても、技法を使えば判ってしまう。今は私が優位だが油断をするべきじゃない…と思っていると彼の表情が暗くなるのが判る。そうだ。彼の名を軽んじてしまった事に気付く、名や家名はその人にとって大事なモノだ。嘘と決めつけるのは失礼だったかもしれない。技法を使う為集中する。
「本当だって!嘘じゃない!危害を加えるつもりもない。信じられないのは判る!だから少しま……って……」
言葉を待たず判定の技法を放つ。彼の言葉が本当なら彼から緑のオーラが出て嘘なら赤いオーラがでる。
「??あれ??痛くない?」
緑のオーラを出しながら彼が身体をあちこち触り異常がないか確かめている。痛みがある技法じゃないので当たり前だ。彼は嘘は言っていない。きっと悪い人じゃないと思う。何だが物凄く疲れた。フゥッと息を吐き彼の剣を拾い返す。
「私だって無闇に攻撃しないわ。いきなり現れたら誰だって警戒するでしょ?今のはあなたが嘘を言ってるか判定の技法を使っただけ。疑って悪かったわ。私はミリアル、ミリアル=バーラントよ。安心して。私達の村まで案内するから」
彼に右手を差し出す。困っているなら、助けてあげなくちゃね。彼の顔がだんだんと赤くなっていく、怖がらせちゃったかな?
「ありがとう。助かるよ」
彼はソッポを向きながら私の手を握り返してくれた。