第58話 外伝:ルシアの冒険
「迷った・・・ここどこぉ・・・」
あたりは鬱蒼とした森で木々も大きく、あまり空が見えない。マコトと別れて旅を始めてから半年が過ぎそうとしていた。ボクはメクレンを出て西へ向かう、位置的に西を目指せば国境で、その先には帝国と呼ばれる国があると聞いた。そこに向かう理由は2つ。1つは帝国だと奴隷でも権利が認められているらしい。フードで隠したままだと買い物に不向きだ。もう1つは力をつけること。マコトの力に成れる様に、隣に立てるようになる事、こっちがメインの目的だけど。
「そもそも西っていうけどこっちで合ってるのかな?チェロ、判る?」
「クゥ~ン、アン」
「そっか、判らないよね。動物がいれば聞けるとも思うけど、魔物ばっかりで意思疎通が出来ないよ」
魔物とも意思の疎通が出来ないか試しては見たが、全くダメ、森に入ってからは馬での移動が難しく、勿体無いけど、野に放してしまった。大きな大木の根元で一休みする、チェロに水とボクも少し補給をする。ここ数日は何も食べてないのでお腹もすいた。マコトがいてくれたら彼と話をしたり、じゃれ合ったり、彼が食料の管理をしてくれていたので全然苦にならなかったけど、1人になると、とたんに不安になってくる。
「あれ?チェロ、何か聞こえなかった?悲鳴・・やっぱり聞こえる!行こう!」
微かに聞こえた悲鳴は再度大きくなって聞こえてくる。声の感じから女性・・・随分と若い。
森の中ではあるが、獣人のボクと狼のチェロには問題なく全力で走れる。悲鳴の場所へ出ると全身が黒く分厚い脂肪の塊を身に纏った、魔物が女性を襲う直前だった。腰の剣を抜き女性の前へ飛び出る。
「大丈夫?悲鳴が聞こえたから助けに来たよ!立てる?」
女性は地べたに座り込み、パクパクと口を開けているが声が聞こえてこない。余程恐ろしかったのだろう。
「何者・・食事・・邪魔・・女・・食う・・子供・・作る・・」
魔物が喋った!?そうじゃない、喋るのは知っているけど、こんなに流暢に喋るかな?もっとくぐもった声のような気がするけど
「気を付けて下さい!冒険者様!あの魔物は亜種と呼ばれる者で通常のオークとは別格に強いんです!」
亜種・・色違い・・そうだ!以前マコトに聞いたことがある。色違いはかなり強いと。だから話し方も違うのか、ボクだけで勝てるのかな?少しだけ臆すると足元でチェロが吼えてくれる、そうだ、ボクは一人じゃない。チェロが、仲間がいるんだ!
「お前も・・女・・食う・・子供・・作る」
ボクはマコトのモノだ!そう簡単にやられはしないぞ!
途中で戦って少しだけ判った事がある。ボクのスピードは自分で思っているよりも速い事、だから目測が上手くできなくて懐に入るつもりが、行き過ぎてしまったり、魔物に体当たりをしてしまうのだ。腰を落して剣を構える。先ずは右脇を抜けて一撃、その後は休まず前後左右からの剣戟を加える。力の入れ方、剣を振るタイミング、頭の中で何度もイメージして行動を起す!
「ボクは強くなるんだ!亜種で躓いていちゃ申し訳が立たないよ!」
亜種の右脇を抜ける寸前に剣を振りぬく!
--ズサッ!--
感触はあった、そのまま休まず背中、左脇、正面の腹部を目掛けて剣を振る。オークからの反撃は右拳の撃ち下ろし!身長が違いすぎるので上からの攻撃が多くなる。後ろに退けば女性が危ない、ならばするべきことは1つ!拳を受け止める瞬間に体を捻り、半身の体勢になると、そのまま腕を駆け上がり片目を剣で斬りつける。
『グギャアア』
オークが目を押さえながら、後ろに下がる。ボクもオークと距離をとり、全力で踏み込む。オーガの首を切り落とした技、あれをもう一度。
一瞬でオークの首元に近づく、不思議とオークの首元に白い線が見える、意識はしていない、でも本能でその線に沿って一気に剣を振りぬくと
--スパンッ--
この手ごたえ・・・振り向くとオークの首を綺麗に刎ねていた!出来た!やった!
剣を納め女性に近づくと、女性の表情は先程と変わらず恐怖に染まっていた。まさか!まだいたのか!?慌てて振り向くが、魔物の姿は見えない。ってことは・・・頭に手をやると、フードが風で外れてしまって獣人特有の耳が頭から姿を見せており、尻尾もマントから出てしまっていた・・・
ハハッ・・馬鹿だなぁボクは、亜人だって事すっかり忘れて人間を助けて正体がバレてまた怖がらせちゃって
「驚かせちゃって、ごめんね。でも君に危害を加えるつもりは無いんだ、本当だよ。上手く言えないけど怪我が無いならよかったよ、それじゃボクは行くね、ごめんね」
チェロを抱き上げると、ボクの目の辺りを舐めてくれる、ありがとう慰めてくれるんだね。そのまま立ち去ろうとした時、後ろから声が掛かる。
「あの・・待って・・待ってください!少し・・いえ結構驚いただけですので」
「・・・ボクは亜人だよ?君たち人間の大嫌いな。お礼はいらないよ、ボクが自分で望んでやった事だから気にしないでいいよ」
「えっと、私は亜人とか人間とか、そういった偏見は持っていません!助けてもらったのですからせめて何かお礼を・・」
随分と珍しい・・というか信じられない。でもマコトもそうだし、どうしようか・・警戒していてもボクのお腹は情けない音を出す。そう言えばほぼ食べ物を食べてなかったっけ・・・
『グゥゥゥゥー』
情けない。その音に気が付いたのか女性が微笑みながら近づいてくる。警戒は怠るな、相手は人間だ、マコト以外は信用できない。
「大丈夫です。何もしませんし、偏見もありません。改めて助けてくれてありがとうございました。私はヴィクトリア=マーフェスと言います。良かったら家へ来ませんか?大したもてなしは出来ませんが、ここから近いですし、お爺ちゃんがいますが大丈夫ですよ」
ヴィクトリアはそういって右手を差し出してくる。お腹すいた・・けど・・チェロも可愛らしい鳴き声で付いて行けと言っている・・警戒は最大限に、直ぐに逃げられるようにしておこう。僕はその手を握り返す。
「ボクはルシア、家名は無い。だたのルシアだよ。とりあえず宜しく」
「ルシア様、良いお名前ですね。ヴィクトリアという名は長いので、リアと呼んでください。ご案内しますね」
リアに案内されて、森の中を歩いて行くと一軒の小屋が見えてきた。余り森小屋に良いイメージは無い。人間に襲われそうになったし、でもマコトと会えたからそうでも無いのかな?すぐ側を川が流れていて、水がとても綺麗だ。後で水浴びしたいな・・腕や脇の匂いを嗅いでみるが臭くは無いけど、気になってしまう。
「お待たせしました。此処が私とお爺ちゃんが住んでいる小屋です。広く無いのでご不便でしょうが、お許し下さい」
丁寧に頭を下げてくれるけど、ボクはそんなにいい身分じゃ無い・・奴隷だし。
「そんな事ないよ。でも珍しいよね、人間は亜人を嫌うでしょ?ボクの知ってる限りじゃ亜人でも普通に接してくれたのは1人しか知らないよ」
「私とお爺ちゃんは少し訳ありなんです。それよりもお腹空いてますよね?私準備してくるので、少し待っていて下さい。料理は少し自信があるんですよ」
そう言ってリアは小屋へと消えて行った。訳あり、か、ボクはなんとも思わないけどきっと事情があるんだな、そこは気にしても仕方がないし警戒を解く訳にもいかない、取り敢えずチェロの水浴びとマントの汚れを落とそうかな。川へ近づくと本当に綺麗な水で浅く底も見える、時折魚が姿を見せ思わず喉がなるけど我慢我慢。マントを外し少しづつ水をつけて汚れを落として行く。チェロは川に入って大はしゃぎだ。
「少し冷たいけど、綺麗だなぁ。マコトと今度一緒に来たいな」
マントに付いた水を払い、大きな木の枝に吊るしておく。大きく背伸びをすると背後から声がした。
「珍しいな、獣人の女か。こんな森の中に何の用だ?略奪なら容赦はしない」
腰の剣に手を当て振り返ると、灰色のローブを着て剣を抜いている男が立っていた。白髪を後ろで束ねているようで、こちらに歩いて向かってくると、背中からフラフラと動いているのがわかる。眼光が鋭い、口元や顎にも髪と同じ白い髭を生やしていて、まさかリアの言っていたお爺ちゃん?でも老人にしては身体が大きい、声色も老人というよりは壮年、お父さんかな?
「ヴィクトリアという女性に連れられてここまで来たんだ。彼女は用があるからと小屋へと行ったよ。ボクはその間ここで待たせて貰っている。何かを奪うとかそういうのじゃないよ」
「ほう・・リアの・・そして、見事だな」
言っている意味が理解できずにいた、見事?何が?考えていると一瞬で男の人が目の前に来た!
え!?
瞬きをしただけで、ここまで?少なくても数十歩は離れていたはずだ、男はニヤリと笑うと
「ふむ!見事」
「ふぇ?ちょ、ちょ、ちょっと、どこ触っているのさ!この変態!」
慌てて手を振り払い、男から離れる。ボ、ボ、ボ、ボクの胸を触って・・それだけじゃない!も、も、揉んだな!許さない!ボクの身体はマコトのだ!絶対許さない!
剣を抜き、男に斬りかかるが、男も持っていた剣で防いでくる!クソ!当たれ!
「雑だな、そんなんじゃいつまでも当たらないぞ?まぁ動くたびに揺れる胸を見るのも一興か、いいなぁおい」
このスケベ!斬りかかりはするが当たらない、そんな事を繰り返し、男はボクの胸ばかり見ている。悔しい!何としても一撃当てるんだ!そうこうしていると大きな声が響いた。
「ちょっと!何をしているんですか!お爺ちゃん!ルシア様に失礼ですよ!」
このスケベで失礼な奴がリアのお爺ちゃん!?
「おう、リアが世話になったようだな。今、俺がリアの爺様って聞いて驚いているな、結構結構、ワッハッハッハ!」




