第52話 謁見
「そうだ、これが切欠で旅行者になったんだよな・・・でも何で今頃思い出すんだ?・・・わからんな」
寝台から飛び起きると、冷めてしまった朝食を食べてみる、人間に合う物と言っていたがこれは美味い。
陶器らしき物の中には、香りの良いハーブのお茶が入れてあり、カップに移して窓の外を眺めながら飲んでみると、これまた美味い。
「凄いな魔王城、料理も一級品だな」
窓から眺める森の奥、湖の上を優雅に飛んでいる龍を見つける。どのファンダジー世界でもほぼ生態系の頂点に君臨していたし、そして前回命を使ってまで加護をくれた龍皇。感慨深いものがある。今回も友好関係を築けるといいな。
---コンコン---
ノックの音に振り返る。今度は失敗しないように、窓から離れずに声を出す。
「どうぞ」
「失礼します。準備が整いましたのでお迎えに上がりました。どうぞこちらへ」
入ってきたのは先程のメイドさんだ。相変わらず胸元は大きく開き、膝下までのスカートから覗く白いストッキングが素晴らしい。この衣装を設定したヤツは本当に天才だな・・・だが、また失礼があってはいけない。落ち着いて、紳士的に・・・
「先程は、申し訳ありませんでした。朝食ありがとうございます。とても美味しく頂きました」
謝罪とお礼を言っては見るが、彼女の表情は全く変わらない。あれ?魔王城の人々は、こういうのは逆効果なのか?貶すとか?いや、さすがにそれは出来ないな。
「いえ。それが私の仕事ですので、それでは準備が出来ましたら、ご案内します」
なんだか機械的な言い方だな・・・気にしても仕方ないか、メイドの後に続き魔王城を進んでいく。いつだったか、こういう風に魔王城に仲間と共に進んだ事もあったな、王の住まう城だけあって、置いてある調度品は磨かれており、絵画も飾られてある。床には赤いカーペットまで敷いてあり魔王というよりは、どこかの王族だな。
ついて歩くと、T字路に出た。正面と左は先が見えないほど伸びており、右には一際大きな黒い扉、しかも装飾が施されており、謁見の間のように見えた。
「魔王様、マコト様をお連れしました」
「入れ」
中からの声で、メイドが大きな扉を両手で開く。
「うお・・・すっげぇ・・・」
赤いカーペットは部屋の奥、玉座まで伸びており、左右には数十人のメイド、皆同じ服を着ている髪の色は多少違うが、軽く頭を下げたまま、微動だにしない。天井には大きなシャンデリアが幾つも連なっていて、左右の壁には等間隔でステンドグラスが煌いていた。芸術には全く詳しくない為、こんな言葉しか出ない
自分が恥ずかしい。
メイドに続き歩を進める。カーペットは足を優しく受け止め歩く音さえしない。玉座に座る魔王、その横が側近のシュベルト、その脇には、奇妙な服の男、真っ赤な燕尾服に白のシャツを着崩し、肌の色は薄い青で髪は青く長い。反対側には2人の男、1人は獣人だろう、立派な鬣と銀色の胸当て、筋骨隆々の腕や足、そして何より、ルシアに見た尻尾、その隣は・・・間違いない龍だ、銀色の鱗に黒く大きな羽、腰の辺りから生えている尻尾の先は鋭く、剣のような隆起したものが生えている。
メイドの行動を真似る。彼女が膝をつき、頭を下げれば、それに倣う。ここは声が掛かるまでこの体勢でいるべきだろう。
「改めて、ようこそ魔王城へ。さあ、面を上げ、名を名乗れ」
ゆっくりを顔をあげる。満足そうに笑っている魔王とその隣で頷く側近。ここで名を名乗ればいいのか。
「お初にお目にかかります、私はマコト=レイトバード。ご用命により参上致しました」
「うむ。早速だがマコトよ、龍化して見せよ」
魔王の言葉に暫し考えるが、ここは正直に全てを話した方が良さそうだ。
「申し訳ありませんがそれは出来ません。ですが、お話ししたい事がございます。とても信じられる事では無いかと思いますが、全て真実です」
否定の言葉に獣人が攻撃体制に入るが、側近に止められる。奇妙な格好の男は不思議と次の言葉を待っている様で、龍も腕組みをしたまま動かない。
「出来ない理由にも関わるのなら聞かない訳にも行くまい。話してみよ」
魔王の言葉に礼を言い、異世界旅行者の事、前回の世界で龍皇の逆鱗から装備をもらった事、装備が揃った時点で引き金となる魔法を使えば、龍の力が得られる事、装備が無くなってしまい龍化は出来ない事。その時に拾った破片も村で燃やしてしまった事を告げた。
当然、誰もが信じられないといった表情をしていた。1人を除いて。
「成る程、理解は出来ませんが、辻褄は合っている様に思います。申し遅れました、私は悪魔王リグハルトと申します。お見知り置きを。さて、魔王様、私は暫し席を外します」
「リグハルト様!まだ途中ですよ、勝手に席を離れられては困ります!」
シュベルトの制止を魔王が手を伸ばし止める。どうも力関係が良くわからない、魔王が頂点なのは判る。だが側近、悪魔王、獣人、龍。彼らは同等なのか?
「良い。リグハルト、せめて向かう先を言ってからにしてくれ。何か思い当たる事でもあるのか?」
「そうですね、先ずは装備品を燃やしたという村へ行きます。剣の破片がそう簡単に燃え尽きるとは思えません。なので、残っていれば持ち帰り龍王に見て頂こうと、そうすれば何か判るかも知れません。それと、マコトさん・・・でしたね。貴方の隣に美しくどんな物でも斬れる剣があるとしましょう、そして、その反対には決して砕ける事のない盾があるとしましょう。ですが貴方はそれに気づかない。気付いているのかも知れませんが、認識出来ていない、これが私から見た貴方です。それでは魔王様、席を外します」
リグハルトは手を胸に当て腰を折ると、一瞬で姿を消した。奇妙な事を言っていたな、剣と盾があるけど気づかない?無いじゃないか、それにその剣と盾は『矛盾』の例えか?そんな事くらい知っている。悪魔王というのは格好もそうだが、奇妙な奴だな。
「では、リグハルトが戻るまで少し待つとするか。その間に紹介しておこう。我が忠臣の2人だ」
獣人が前に来る。
「獣王のデュオンだ。人間は嫌いだが、お前は別の様だ・・・ん?おい!お前!何処で会った!」
急に俺の右腕を取り匂いを嗅ぎながら訳のわからない事を言って来る。何だよ、そんなに匂わないだろうが!失礼な奴だな。今度は胸倉を掴まれ前後に揺さぶられる。
「おい!何だよ・・・ちょ・・止めろ!何だか知らないが、落ち着けよ!」
デュオンの両手を払い、少し距離を取る。腰の剣に手を伸ばすが、ここは王の間だ、無闇に剣を抜いて罪に問われないか?というか魔王城だから平気か?
「止めろ!デュオン、何をしている。我が呼び寄せた客人だぞ。無礼は働くな」
魔王の一声で止まってはくれるが、敵意を露わにしている。牙を剥き出しに唸る声は、腹の底に響く流石は獣王だ。すると視線を遮る様に大きな巨体が目の前を覆う、顔や体つきは人間の様だが黒い翼と銀色の尻尾、そして体を覆う鱗は見間違うはずがない。
「儂は龍王ジルク。お主同様疑われている、正直お主の言う事信じられん。この世界の他にも龍がいてその皇の加護を貰ったなど・・儂なら与えぬ、リグハルトが戻るまでは危害を加えぬ事をここに誓おう」
「助かります。俺も例え世界が違えど恩義のある龍と争いたくありません。暫くお世話になります」
手を差し出すが、握手はして貰えなかった。嫌われたかな?無理もないか、突然現れた人間と謀反を企んだ疑われては・・・関係改善できる様にして行きたいと思う。そこまで考えているとデュオンが脇から身を乗り出して来る。
「慌てたのは悪かった、だが、お前の腕から微かだが懐かしい匂いがした。何処かで獣人、それも女の獣人と会った事はないか?この鬣と同じ茶色で、髪は長い、人間には言いたくはないが・・・スタイルも良い」
スタイルの良い女の獣人なんて1人しか知らない。明るく何処までも真っ直ぐに好意を向けてくれる人、今は何処にいるのかな?元気だろうか。
「女性の獣人でしたら1人、暫く一緒に旅をしました。名前はルシアと聞きました」
それだけ言うと、またもやデュオンが胸倉を掴んで来る。大きな目がさらに見開き先程よりも力が強い。
「何処だ!何処にいる!ルシアは・・・俺の娘だ!!」
まさか獣王の娘だったとは、あの強さも納得できる・・・が似てない。全く似てない。それよりも隷属の魔法の事はどう伝えよう、まさかご主人様ですなんて言ったら、このまま絞め殺されそうだ。
だが・・・少しマズイ、い・・息が出来・・ない。途端にデュオンが横に吹っ飛ぶと漸く呼吸ができる。
「デュオン!いい加減にしろ!人間は脆弱なのだ!殺す気か!」
ドヤ顔で説教する魔王だが、お前にも殺されかけたからな・・・




