第4話 出会い
「なんなんだあれ」
木々の間から様子を伺い、助けに行こうとした。確かにタイミングを見計らう行為は良くないと思う。それでもあの少女が放った一撃は理解を超えていた。魔物を斬り裂いたのだ。
斬りつけると斬り裂くのでは全く別物である。斬り裂く方が何倍も難易度が高く、武器の性能と自身の技量が相手を何倍も上回って初めて可能になるのだ。それを見た目は十歳程の少女が易々と行なって見せた。驚いたのはそれだけではない。少女は明らかに自分に気付いていた。
あの距離で、自分は殺気や気配を消していたにも関わらず、思わず更に奥へ退避した。退避と言えば聞こえは良いが、逃げたと言っても過言ではない。
吹き出る汗を拭う
「恐ろしいガキがいるんだな。触らぬ神になんとやらだ。テンプレも期待出来そうにないし、地道に森を抜けよう。疲れたわ」
大きく息を吐き再び歩き出す。逃げた事は恥とは思わない。退き際を見間違う程戦闘に慣れていない訳ではない。気持ちを切り替え森を進む。プライドがなどと、気にすれば自分はとっくに死んでいるはずだ。
まだ村や町は見えない。どこまでも続くかのような木、木、木。
ふと空を見上げると夕暮れに近い時間のようだ。疲労感はないし、空腹でもないが、ただ
飽きた。仲間と共に迷宮に籠もったりもしたが、仲間がいるのと独りでは大きな違いだ。
更に進むと気配を感じる。
「魔物?……違うな。人でもないような……様子見だな」
男は気配を断ち、ゆっくりと近づく。薄い青色のローブを着た長い緑色の髪が印象的な女性を見つける。
「やっとか……人の気配とは若干違うのはきっと……パキッ……あ"」
足元の枝を踏み、音を立ててしまう。何というテンプレ。こっちのテンプレは予想していなかった。
「誰?」
女性から鋭い声を向けられる。それだけではなく女性が右手を翳すと魔力が掌に集まっていく。攻撃魔法か、反射的に両腕を上に上げ敵意が無いことを示す。
「驚かせて悪い。怪しい者じゃない……って……」
女性は魔法を放たず、警戒はしているが話を聞いてくれるようだ。
「何?言いたい事があるんじゃないの?黙っているのは、それらしい言い訳を考えているから?」
女性の顔が強張り敵意を露わにする。
「あ……いや……スゲー綺麗だからつい……言葉がでなかったからで……」
女性の容姿は確かに素晴らしい。長く緑色の髪は太陽の光を浴び輝いており、髪と同じ緑の瞳は大きくハッキリとしていて細身ながらスタイルも申し分ない。百人見れば百人が振り返るだろう。絶世の美女が此処まで似合う人がいるとは思わない、というか会ったことがない。
「そ……そんな事は聞いていない!話を聞いて欲しくば、腰の武器を放りなさい。後、そこから動かないで。それと何を企んでいるか、知らないけど抵抗はしない事ね」
どうやら両腕を上に挙げる仕草は、敵意がない現れでは無いようだ。女性の顔が赤くなっているような気がしたが、気のせいか……
二刀を相手との中間に放り、挙げた腕を戻す。
「改めて、話を聞いてくれてありがとう。
俺はマコト=レイトバード。訳あって旅をしているんだが、森で迷ったらしくて出来れば人のいる所へ案内をお願いしたい」
「マコト?珍しい名前ね。レイトバードの家名も聞いた事がないわ。嘘をつくのはお勧めしないわ、すぐにバレるわよ?」
嘘はついていない。家名はあった方が便利だからと以前の世界で貰ったものだ。考えるのも面倒なので、生前の本名を名乗っているだけだ。
実は気に入っていたが、変なのか……
かなり傷つくな……すると女性の魔力が高まるのを感じた。
「本当だって!嘘じゃない!危害を加えるつもりもない。信じられないのは判る!だから少しま……っ……て」
言うが早いか女性から魔法が放たれる。身体に魔力が入ってくるのがわかる。
「??あれ??痛くない?」
魔法は放たれたようだが痛みがない。防具のお蔭か不明だが、痛みや不快感などの状態異常の類いではないようだ。
女性が警戒を解いたようで、二刀を拾いこちらへ差し出す。
「私だって無闇に攻撃しないわ。いきなり現れたら誰だって警戒するでしょ?今のはあなたが嘘を言ってるか判定の技法を使っただけ。疑って悪かったわ。私はミリアル、ミリアル=バーラントよ。安心して。私達の村まで案内するわ」
ミリアは笑顔を見せ、右手を差し出す。
その笑顔は[笑顔が眩しい]を体現するものであった。
その笑顔はヤバイ。本気ヤバイ。惚れそうになる。
思わず横を向きその手を取る。
「そんな技法があるんだ、知らなかったよ。ありがとう助かるよ」