第43話 天才との共闘
「なによそれ?まぁいいわ、先ずは言ったとおりに私に近づけないで」
魔王クラス……この世界にはレベルもHPもMPもない、というか可視化できない。あるのは自分の持っている技が使えるということくらい。ちまちま戦っていたんじゃ、きっとこっちがやられる。今も昔もやる事は一つ!やられる前にやる!
「いくぜ魔王……クラス!最初から全力だ!」
速攻で距離を詰める。遠距離攻撃の手段が無いので、基本は接近戦だ。あの大きな鎌では懐に入れれば……なぎ払われるのを、前方へのジャンプで躱し、そのまま右足を軸に回し蹴りを放つ、
-----壱式 龍尾-----
大きく後退させる。開いた体を半身に戻し、右手で赤い刀身の剣を抜くと、
-----弐式 龍脈-----
居合いのように高速で斬り抜ける。右足で地面を踏みしめ、左手をリッチのむき出しの肋骨に添える、
-----参式 龍壊-----
ゼロ距離からの打撃、所謂、発剄だ。手の当たったアバラが砕け散るが、本体には大きなダメージは無いようだ。
-----肆式 龍牙-----
突きは的の大きい下顎を狙う。突き上げはリッチの顎を完璧に捉えるが、金属音の様な甲高い音を立て体制を崩すだけに留まった。斬撃や突きは効果が薄いと予想された。
-----伍式 龍爪-----
飛び上がった身体を上半身の力で前転させ、踵を再度顎に当て、激しく顔を揺らす。脳があるか不明だが、生身ならば平衡感覚を失うが、恐らくは効果がない。骸骨相手の技じゃないか……
-----陸式 龍烙-----
動きをある程度止めるのならば、烙印に向かう物を飛ばすこちらが便利だな。両脇、両足に烙印を刻む。転がっている破片を剣で打ち出し烙印へ向けて放つ。
「下がりなさい!動きを止めるより攻撃したほうが良さそうね」
どうやらミラの魔法準備が整った様だ。破片は勢いを増し続け、リッチを打ちのめす。一旦下がりミラの魔法を待つ。
「迸れ!雷光の如く!上級火炎魔法」
ミラが振りかざした杖より、大きな火球が6個出現し、それぞれが螺旋を描くようにリッチに襲い掛かる。
「動きを止める魔法じゃないのか?」
「アンタの攻撃を見ていたら、しっかりと止めているから私は攻撃魔法の方が適切でしょ」
それだけの状況判断が出来るなら、認識を改めよう。俺の隣にいるのは十歳の子供じゃない。ミラ=フォルティという天才魔法使いだ。彼女ならば、冷静な判断と最適解が導き出してくれるはずだ。
轟音と共にリッチが火球に包まれ、巨大な火柱が上がる。此処は地下だし崩れなければいいが……
「いい?ここで油断すれば痛い反撃を食らうわ。先ずは準備期間で魔法が使えない私が、扉を見てくる。アンタは警戒を頼むわ」
ミラも認識を改めてくれたのか、まさか『頼む』なんて言葉が出るとは、ここで調子に乗らず、しっかりと受け答えをしないとな
「お任せを。我が主」
「ダメね、開かない。アイツはまだ倒れてない。油断しちゃダメよ」
戻ってきた彼女に悲壮の色は見えない。魔王クラスならこの程度で倒れないと予想しているわけか。
爆炎の火柱から、ゆっくりと巨大な影が現われる。
「見事!類稀ナル連続攻撃、全テガ理ニ適ッテイル。ソシテ、魔法モソノ若サデ、ナントモ素晴ラシイ威力ダガ!コノ私ヲ仕留メラレル、マデニハ足リナイ」
「あらどうも、魔王クラスにお褒めの言葉を貰えるなんて、やっぱり私は天才ね。けど……残念。私の火力はまだまだ上がるわよ!!」
あれで、全力じゃないのか、ならばもう一度動きを止めるか。腰を落とし、間合いを詰める為足に魔力を行き渡らせる。傍に来たミラが小声で話す。
「いい?ああは言ったけど準備時間が結構あるの。また暫くは魔法が使えないわ。そして火力を上げるにはもっと長く魔力を練らないといけない。今度は足止めもそうだけど、出来るだけ長く、なんなら倒してしまうくらいの勢いでお願いね」
なるほど。準備時間は放った魔法の威力に左右されるのか、下級よりも上級、そしてそれ以上ともなれば……倒せるかは判らないが、やるしかない!
「お任せを。倒せるかは判りませんが、行きます」
剣を構え、繰り出すのは複合技。一度はなった技を再度順番通りに見せるほど馬鹿じゃない。
「いざ、行くぞリッチ!!」
-----肆式 龍牙・穿孔-----
弾丸のように速く、身体ごと突きを繰り出す。これなら初見ではかわせないだろう……
-----ガギィィィィィィン-----
甲高い音が響き、突きの勢いが止まる。大鎌の先端と剣先がぶつかり、ピクリとも動かない。
「フム、中々ニ鋭キ攻撃ヨ、ダガ、遅イ!」
初見で見破られるとは、さすが魔王クラス。今までも避けようと思えば簡単だったが、あえて攻撃を食らっていたのか?だが、これで終わると思うな!まだまだ諦めちゃいない。とはいえ、複合技もそう簡単に思いつく物じゃない。
「今度ハ此方カラ参ロウカ」
振り払ってくる鎌を避ける……が、徐々にスピードが上がっていく、剣で払い、身体で躱し、対応も出来なくなってくるほど速い。まるで勇者を思わせるようだ。体中に切り傷が出来てくるが、動けないほどじゃない。まだ耐えられる。
「ホウ?マダ耐エルカ。愉快ヨナ。デハ、コレナラドウカナ?」
一度動きを止め、鎌を横に構える。恐らく高速での横薙ぎだ。一瞬でも油断したら、真っ二つ。剣を体の前で構え受け止める体制をとる……何故、一度攻撃を止めた?仕切り直しのつもりか?相手は死者の王……人間に制裁を加える為に現われたと言っていたな……まさか!
リッチの虚空の瞳が赤く光ると、ミラ目掛けて突進していく。やはりそっちが狙いか!
「見え見えなんだよ!クソ骸骨!」
-----肆式 龍牙・穿孔-----
-----ガギィィィィィィン-----
間一髪。ミラの胴体に届くまで後五センチといったところか。魔法使いは近接戦闘に向かない。当然素早い動きについていけず、棒立ちになっていた所を狙われたようだ。鍔迫り合いでは骨よりこちらが有利のはずだ、思い切り力を込めるが、まるで動かない。そればかりか徐々に押されていく。
「フフッフハハハハ!良イ、良イゾ人間。奇襲ヲカワストハ。アヤツノ気持チガ少シ理解デキル」
大きく鎌を振り払うと、力を込めていても吹き飛ばされてしまう。ミラを庇い背中から壁に激突してしまった。
「ぐあっ」
「きゃあ」
「大丈夫か?すまない。まさか骸骨に競り負けるとは思ってなかった」
「そうね。でも庇ってくれた事には礼を言うわ。なかなか強いじゃないの、もう少しよ。準備時間が終わるわ。今度こそ……」
フラフラではあるが、2人とも立ち上がれる。まだ戦える。
「ソウカ、人間ニハ見エヌカ、感ジラレヌカ。力ノ源ヲ」
リッチが力を貯めると、徐々に骸骨を覆う紫色の光が見え始める。それが形を現していく。あれは……亜人!?半透明の亜人達がリッチに吸い込まれていく。
「我ガ此処ニ召喚サレタノハ、魔方陣デハナイ。悲痛ナ叫ビヨ。我ガ力ニ、コノ者ラノ力ガ加ワリ、ソレガ汝ラニ牙ヲ向イテオル。サア!人間ヨ、コノ七千人ノ怨念ト我ヲ退ケテ見ルガ良イ」
-----ズドーーーーーンッ-----
轟音を立て、リッチの周辺が爆発を起す。煙幕からはリッチの巨体が見えない。煙が晴れると巨体は無く
紫色の肌に、銀色の髪、黒い服には袖が無い。同じ黒のズボンに、赤いマントを羽織った体格の良い男が立っていた。男は目を開けると、赤い瞳が光っている。妖しく口角を上げそこからは二本の牙が鋭く光っていた。
「さあ、第二章の幕開けだ!」




