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異世界旅行者の冒険記  作者: 神祈
命の重さ
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第41話 狂喜

 「いってらっしゃい。君なら大丈夫だ、次に会える機会があればいいね。さようなら、ルシア」


 マコトの手の温もりが離れると、ボクの両目からは止め処なく涙が出てきた。起きてはいたけど彼と向き合う勇気がなかった。だから寝た振りをしていたけど……


「さようなら、なんて言わないでよ。またねって言って欲しかったな」


 いつだったか、マコトの笑う顔がとても気になった、困ったような、寂しそうな、そんな顔。何で楽しそうに笑わないんだろう?また会おうとも言わなかったけど、きっと逢えるよ、ううん、ボクから逢いに行くんだ!フード付きのマントを羽織る。最初は彼の匂いに包まれているようで、とても嬉しかった事を思い出した。


 弱音を吐いてはいられない!ボクはボクの意思で、旅に出るんだ。いつか彼の隣でもう一度笑う為に!




 ----------




 それからも、道中での会話も無くアンデットが現れては、魔法と剣でなぎ倒していく。頻繁(ひんぱん)どころじゃない異常発生している、そのせいで他の魔物には会わず、襲ってくるのはアンデットばかりだ。


 生者に対して殺意を持つヤツらの矛先は、俺達だけじゃない。生きている魔物、動物にもその殺意が向いている。アンデット化した魔物や動物も襲い掛かってきて、徐々に腐敗臭が強くなってきている。



()ぜろ!業火の狂乱!中級爆発魔法(バースト)


 アンデットの群の中心に魔力が集中し、大きな爆発を起こす。正直威力はあるが肉片が飛び散るからもう少し抑えて欲しいとは言えず、付着した物を払い前衛に出る。


 百メートルも歩かないうちに前方からアンデットが襲ってくる。数は4体、すぐさま距離を詰め、右手の赤い刀身の剣で二体纏めて斬りあげる。手応えもなく、呻き声を上げ倒れる。左手青い刀身の剣で回転しながら真横に斬り抜ける。剣を払い収めるとミラが俺を押しのけて前へ出る。準備時間とはいえ短いので、ほぼ、このローテーションだ。


 日も陰りを見せていたので、野営の準備を行う。


「ミラ、準備ができた」

 短くそれだけ言うと、彼女は無言で保存食を食べ、シュトを飲む。俺も飲みながら周囲を警戒する。特に話しがしたいという気にはならないし、彼女も望んでいないだろう。



 -----『グオオオオオオオッ!』-----



 突然ミラの後方から、大きな唸り声と轟音と共に、木々がへし折られていく。咄嗟にミラ抱き締め横に飛んで回避する。焚き火があった場所には大きな棍棒が、振り下ろされている。大きいアンデットが俺達を見下ろしている、オーガか?いや、3つ目じゃない!なら俺の知らない巨大魔物か!二本の剣を抜き、ミラを後ろに下がらせる。辺りは暗闇が広がっており、全体像が掴めない。また背後から今度は異常な笑い声が聞こえた。


 -----『アハハッハハハハハハハハ』-----


 狂気にも似た笑い声の主はミラその人だった。まさか彼女の策略かと、彼女に剣を向けるが……


「凄い!一つ目のサイクロプス、討伐Sクラスよ!こんな大物までアンデット化しているなんて、私は運がいいわ!アンタ、今だけは共闘してあげる。腐っていても成体なんだからきっと凄い発見ができるわ!いい?なるべく傷付けないようにね!」


 無茶を言ってくれる。ならどうやって倒すんだ、ここで死ぬなんてゴメンだ。


「ふざけるな!魔物を気遣って死ぬのは一人でやってくれ!俺は全力で行く!」

 手加減をしてる相手じゃない、討伐Sクラスってことは亜種より上だろ?全力で行っても勝てるかどうかだ!


 振り降ろされた棍棒が横に飛んでくる、しゃがみこんで躱すと、懐に向かっていく。太もも辺りに剣を突き刺し、両手で握り、思い切り跳躍する。


「うおおおおおおおお!」


 腐っているんじゃないのか?非常に硬い、斬り上げられたのは、僅かだ、魔物は気にする様子も見せず左手で拳を握り、振り下ろしてくる。受け止められるわけがない、一旦大きく後退する。物理に強いのであれば魔法に弱い・・・といいな、赤と青の刀身から放たれる攻撃は魔法に近いはずだ。大きく剣を振り炎の斬撃と水の礫を放って見ると若干蹌踉(よろ)めく、効いていると思いたい。方向を変えながら何度も繰り返すが本当に効いているか不安になってくる。


 ミラは後ろで俯いたまま動かない。共闘しようとか言ってたクセに・・・まぁ邪魔にならないならそれでいい。今はコイツを何とかしなければ。元からなのか、アンデットの特徴かは知らないが、動きが遅い。ならば、ルシアの動きを真似してみよう。スピードを上げ、左右、上下と斬撃に炎を纏わせ、斬り抜いていく。


 まだ足りない・・・彼女はもっと速かった・・・まてよ!?異世界旅行者の特権は技術を持ち越せる事。ならば、その複合も出来るんじゃないか?速度に対応した技術・・・試してみよう。大きく息を吸い、腰を落とす、左足を前に出し半身に構える。両手で剣を持ち腰を捻る。


 -----肆式 龍牙・穿孔ししき・りゅうが・せんこう-----


 通常の龍牙は突きを放つ。そこにルシアを真似たスピードを加えると突きが変化し、身体ごと弾丸のようにアンデットの腹の中心に風穴を開けた・・・出来た!!


 威力が強すぎたのか、着地も間々ならず木に激突してしまった。複合は次に繋げられなさそうだが、単発としてかなりの威力だ。まだまだ改良の余地はあるが、これなら戦い方にも幅が出るし、任務が終わっても恐らく王都へは戻れないだろう。ならば特訓でもして、勇者を越す最強を目指すか!


 ミラがスタスタと近づいてきた、興奮冷めやらぬ俺は思わず口に出してしまった。


「ミラ!見てみろ!討伐Sクラスを倒したぞ!これなら俺もまだまだ、つよ……」


 言い終わる前に彼女からキツイ平手打ちを受けた。一瞬思考が止まる、何故だ?一人で倒したのに?共闘じゃなかったからか?


「ふざけないで!どうするのよ!この貴重な検体を!あちこち炎で焼かれて、挙句の果てに身体に風穴まで開けて!アンタみたいな脳筋にも判りやすく言ってあげる、お腹には重要な臓器が詰まっていて、そこから食べ物の判別が出来たり、子孫の残し方、色々判るの!吹き飛ばしてどうするの?きっとアンタはこう言うでしょうね『腐っているのに?』って、これだから脳筋は嫌いなの!腐っていようが、残ってさえいれば研究は出来るの!アンタは確かに強いわよ、それは認める。だけどね、自分勝手に戦わないで!」



 ミラは黙って、横を通り抜けると残っていた、足や腕、頭の一部を採取し、持って来ていた箱に入れていく。少女がアンデットの一部を取り分けるのは、中々にシュールな光景だ。



 すっかりと日が落ちきり、夜にも拘らず、俺達は目的地へと足を進める。そこに一切の会話は無く、ただ重苦しい空気だけが残っていた。確かに調子に乗り過ぎていたのは認める。複合の技は今まで思いつきもしなかったし、いきなり出来たのには驚きもした。それ以上に嬉しかった。戦うものにしか判らないこの高揚感だがそれも、端から見れば独り善がりなのかも知れない。


 なら、傷つけずになんて言わず、最初からそう言ってくれれば良い。言ってくれなきゃ判らないだろ?

 協力してと一言言えば、俺だって……そこまで考えてから、漸く理解した。


 相手は十歳の子供だ、大人が言う事を察しないでどうするんだ、すっかりと失念していた事実。どんなに神童だ、天才だと持て(はや)されて、大人びた言動だろうが十歳の少女だ。そりゃ好かれない訳だな……

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