表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅行者の冒険記  作者: 神祈
命の重さ
41/84

第40話 魔法使いと騎士

 「君には何よりも大事なものはあるかい?何としてでも叶えたい願いはあるかい?その願いの為なら命を捨てる覚悟はあるかい?」


 玄関を開けると、いきなり質問をしてくる子供の姿は金髪に目まで金色だ。というか、何処から入ってきた?鍵は掛けてあったはずだ。


「何の話だ?というか誰だ?何故ここに居る?親は何処へいる?」


「色々不思議に思うのは仕方ないね。一つずつ答えようか。

 まず一つ目の質問は君の現状を変える事ができるけど、そのために命を捨てられるかどうかを聞いている。

 二つ目、僕に名前は無い。けど君たち人類に判りやすく言うなら、天使と言えばいいのかな。

 三つ目は簡単、君に会う為だよ。

 四つ目は難しいね。親と呼べるのはいない、ただ、ある人に使えているから親と呼べなくも無い。呼ばないけど。これで満足かい?」


 なん……だと……天使?この子供はそう言ったのか?この現代に天使だって?人類が宇宙に飛び出す時代に天使?……ップ、なんだよ、笑わせてくれる。妻が用意した芸人か?いまどき無料でここまでする芸人がいるか?ならドッキリか?カメラは何処だ?または、テレビ局が用意したドキュメンタリーか?人の不幸を飯の種にする気か?


「疑り深いね。まぁそれもそうか、なら一緒に来てもらうよ。会えば判るよ、さあ行こう、時間の狭間、全ての時間が集まる場所、そして時間を司り全てを見つめる女神様のところに……」




 ----------




 またか……睡眠は必要ないが眠る事はできる、だが夢を見た事なんて無かったはずだ。体の調子も悪くない。ふと、隣を見ればルシアが良く眠っている。昨日は驚いたな、まさか彼女があんなに考えていたなんて


 昨日はミラとアンデット発生の原因を探る為に西にある村まで行くこと、その間は一人で大人しくしていて欲しいと伝えた。彼女の返事はあっさりとOKだった。対して彼女の話とは……




 ~~~~~~~~



「ボクは暫く旅に出たい、一緒じゃなくて一人で。昨日色々考えたんだ。ボクが故郷を飛び出したって話はしたよね?人間に怯えて、逃げ回って、隠れて住んで、そんな一族の生活がイヤだった。我慢できなかった。結局は人間に捕まって、危ないところを助けられた訳だけど……でも昨日、同胞(なかま)を見て助けられない自分は、嫌っていた一族と何処が違うんだろうって、「そんな事は……」フフッ。マコトならそう言ってくれると思った。でもね。結局は一緒なんだよ。顔色伺って、嫌われないように、ボクだってマコトにそういう思いが無かった訳じゃない。ボクは君の奴隷。だけど仲間って言ってくれた。凄く嬉しかった。君の横に立てるように、ボク自身を鍛えなおす為にも、一人で旅がしたいんだ。その為の許可が欲しい」



 そう言い切る彼女の瞳は、とても素敵で断る理由も見つからない。色仕掛けをしておどけたり、泣いたり、笑ったり出来るじゃないか。何が亜人だ、何が奴隷だ。ルシアは命と心を持った人じゃないか、ならば笑って送り出そう。これでいい、深く関われば別れが辛くなるのはエルフの村でも経験しているじゃないか。


「それが君の意思なら、許可を出そう。って俺の許可なんていらないだろ?ルシア自身の道だ。俺がとやかく言うのはおかしくないか?」


 ルシアは笑って、頷いてくれた。不意に服をめくり、大きな胸を見せ付けてくる、そこには忌々しい烙印がしっかりと刻まれている。


「これがある以上は、許可を貰わないとね。きっとマコトの力になるから。助けが欲しかったらいつでも呼んでね、きっと力になって見せるから。大好きだよ。ボクのご主人様」



 そういって彼女と口付けを交わした。いつだって積極的な彼女に任せっぱなしで、俺からなんてとてもじゃないが出来そうも無い。そんなところも尊敬できる。普通立場は逆だよな……



 ~~~~~~~~


 まだ眠っている彼女の頭をそっと撫でる。


「いってらっしゃい。君なら大丈夫だ、次に会える機会があればいいね。さようなら、ルシア」


 装備を確認し、少ないがルシア用に路銀を置いていく。上手くやりくりできればいいが、余り多く無くてごめんな。ゆっくりと扉を閉め、ミラとの待ち合わせ場所である街の入り口に向かう。さすが最北端の街だけあって、朝は非常に寒い。吐く息も白く、大きく息を吸い込むと肺が痛くなる。



 ミラはすでに来ているようで、遠くからでも黒尽くめの格好は非常に目立つ。


「遅い!私を待たせるなんていい度胸ね!大方連れの女と宜しくやっていたようだけど、いい?これから原因の調査に向かうのよ?気を抜くんじゃないわよ!」


 イチイチ悪態をつかないといけないのは病気か?しかも十歳が、宜しくやってた とか言うもんじゃない。


「待たせたのは、悪かった。調査には万全で挑むのは当たり前だ、これでも騎士だからな。ところで場所は西って事だけだが、詳しい場所は判るのか?」


 あまり遠すぎても、そこまでの準備はしていない。持っているものでせいぜい三日が限度だ。彼女は心底呆れた様子で大きなため息をつく。


「はぁ~。あんたね、詳しい場所も判らないで調査とか言ってるの?本気?ここから二日くらいよ。取り合えず私が先頭を歩くから、後ろを付いてきなさい。こんな女の子に先導させるなんて騎士様は良いご身分よね」


 そう言って、さっさと歩き出す後を付いて行く。一言・・じゃないな二言多い。これで道中大丈夫か?不安になるが、道案内は必要だ、ある程度の悪態には目を瞑ろう。……デレないよな?




 道中は、ほぼ無言。これは精神的に楽だ、アンデットは確かに出現率が多い。生前の面影も無く、腐りかけた肉を纏い、目があったであろう箇所は空洞で口からは腐敗臭とうなり声を上げ、生者に向かって猛烈な殺意を向けてくる。


 移動速度は遅く、発見次第ミラの魔法の餌食となる。一度魔法を放った後の準備時間は、俺が前へ出て剣でなぎ倒す。


 そしてまた交代の繰り返しだ。会話も無くただ感覚で交代しているが、意外と形になるものだと感心する。日が陰るのを確認して野宿の準備を行う。


 とはいえ俺には睡眠は必要ないし、ミラの分だけでいいから簡単だ。


「今日はどの程度歩いたんだ?半分くらいは来たかな?」

 焚き火に当たり、熱い湯にシュトの葉を入れる。色が滲み出したところで、カップに移し蜂蜜のようなものを入れゆっくりとかき回す。少しづつ飲んでみるが、ルシアのようにはいかないな……すこし苦い。


 ミラは黙々と保存食を食べ、紅茶を飲んでいる。全く会話にならない。


「アンタはイチイチ会話をしないと死ぬ病にでもかかっているの?到着すれば判ることでしょ?少し黙っていなさいよ。でもまぁ、戦闘でも戦えるようだし、寝床が一つってことは、寝ずの番をするんでしょ?質問に答えるくらいはしてあげるわ。移動距離はおよそ半分。明日早朝に出発すれば夜には着くはずよ。夜間は死霊系の魔物が活発になるから、調査はその次の朝からね。これで満足?私は休むから、見張り宜しく。くれぐれも起さないでね」


 それだけ早口で言うと、さっさと寝床に入ってしまった。いや、寝ずの番もするけど、もっとこう……ルシアとの旅がどれだけ、賑やかだったかを思い出させる。大きくため息をつくと、薪をくべながら火を消さないように注意する。ルシアはもう旅立ったかな?買い物はキチンと出来ただろうか?チェロの事も忘れてないだろうな?寝床に目をやると、ミラはすうすうと寝息を立てていた……



「さすが子供、寝つきがいいな。そういえば、なんだっけ?デレない人の事、なんて言ったかな……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ