第3話 幼き勇者
アレシア=ベイウッド 八歳
天啓の勇者と呼ばれる神に選ばれた少女。
その証は右手の甲に紋章が浮かぶ。
産まれながらに紋章を持つアレシアは王宮で勇者となるべく厳しい訓練を受けていた。今日は
新人騎士達との魔物討伐の予定であった。
訓練は順調で間も無く帰還予定であったが、最後にとてつもない魔物に遭遇してしまった。
ウォールベア
壁の様に大きな熊の魔物で更に凶暴。
騎士団は魔物討伐も行うが基本は前衛、中衛、後衛と別れる。今は中衛の弓兵や後衛の魔法使いはいない。前衛だけでどうにかなる魔物では無い。こいつの討伐ランクはBクラス。3,4隊で戦う相手だ。
ましてやこの近隣にはいないはず。ここらは精々最低のDクラスからレアな魔物でCクラスしかいないはず。
これも魔王の動きが活発になってきた影響か。
現状の騎士団では戦える者は少なく声を張り上げた団長のオズマですら、1撃を躱せるか怪しい。
アレシアはゆっくりとウォールベアのまえに立つ
「ここは私に任せて、オズマさんは動ける人を連れて後方へお下がり下さい」
剣も構えず、アレシアの口調は普段と変わらない
「バカを言うな!幾ら勇者とはいえ、お前はまだ子供だ。ここは我らに任せ森から退避するんだ」
オズマは即座に反応する。そうだ。我らは誇り高き王国騎士団。国の、民の希望である勇者をこんな場所で散らせてなるものか!
「……じゃ……『グルゥアアアアアア』……ときえ……」
アレシアの呟きは、魔物の威嚇と重なり上手く聞こえてこない。勇者の前へ出なければと気持ちは思うが足が動かない。オズマは貴族の産まれで、幼少の頃から騎士に憧れ貴族とは思えない勤勉さで騎士団に入った。訓練も真面目でここ数年平和そのものだった王国では魔物討伐とはいえDクラスしか相手にしていない。動けなくなるのも無理はない。
ウォールベアが大きく息を吸い込むと、
『ガアアアアアアアアアアアア!』
目の前の人間目掛けて突進しようと力を溜めた
その瞬間『グル……ゥ……』
アレシアのが剣を振り上げると、ウォールベアの身体が真っ二つに別れ物言わぬ骸と化した。
アレシアは剣に付いた血を払うと、
「だから任せてと申しました。さあ動ける人を連れキャンプへ戻りましょう。亡くなった方は後で処理しないと、アンデットを呼びますから」
剣を収め、オズマに向かう。
「あ、ああ、そ、そうだな。勇者殿の言う通りだ。息のある者には応急処置とポーションを分けろ。
次が来ないとも限らない。急げ」
言われるとおり動ける者をまとめキャンプへ向かう。
アレシアは剣を収めると、木々の向かうのある一点を見つめ誰に言うのでもなく
「あれ?隠れちゃったんですかね?きっとまたお会いできるでしょうけど、どんな人か楽しみですね」
笑みを浮かべながら、キャンプへと戻っていった。