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異世界旅行者の冒険記  作者: 神祈
命の重さ
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第37話 メクレン到着

  「もう少し先に入り口があるわ。伝えておくから、そこから中に入りなさい。急いで!」


 声は少し幼く聞こえるが、今は気にしていても仕方ない。言われる通り入り口に向かい走る。


「ルシア、出来るだけで良い。尻尾は隠してくれよ」

「判った。任せて」


 入り口は開かれており、そこから兵士が声を上げる。


「お前達か!話は聞いている。早く中に入れ。また、アンデットが来るぞ」


 中に入るやいなや、またも爆発音が聞こえた。何度もあんな攻撃魔法を放つなんて相当魔力が多い人物なんだろう。まさか、ロクザで聞いた天才か?


「進行の最中に来るなんて、余程運がないな。ここはメクレン。王都最北端の街だが、それなりに栄えている。ところで、入れてしまってアレだが、身分が判るものとかないか?疑うわけじゃないが規則なんでね。悪い」


 王都での手紙を見せる。伝達手段が乏しければ、手紙か伝書鳩的なもので代用するしか無い、一瞬生前の世界の豊かさを感じるが、今はそれを持ち出しても仕方ない。


「確かに王章が入っているな。……ってことは騎士様ですか!失礼しました!」

 今更敬礼されてもな……


「いや、別にそんな大層な者じゃないから畏まらないで欲しい。それより宿を取りたいんだが、知ってる所があれば教えて欲しい」

「なんか変わった騎士様ですね。宿でしたら、兵士の宿舎があるのでそちらでどうですか?狭いですけど」


 宿舎は金がかからなくて助かるが、ルシアも一緒だと少々マズイ。


「申し出は有難いが、連れがいるのでね。出来れば別の所を紹介してくれないか?」

 なんだかニヤニヤしながら、顔を近づけてくる。


「なるほど、わかりますよ。気兼ねなく楽しみたいですよね?馬はこちらでお預かりします。宿はここを真っ直ぐ行って商業地区の左側です。コルスタって看板がありますからそれが目印です」


 わざとらしく敬礼すると、馬を引いて行ってしまう。気兼ねなくは間違っていないが、楽しむってのは大きな間違いだと声を張り上げたい……とりあえず宿を取って、あの魔法使いの事を聞いて見るか。

 ルシアと連れ商業地区へ向かう。街全体を五メートル近い壁が円形に囲んでおり、壁の上部は人が歩けるようで、兵士の影が見え隠れしている。コルスタの看板は歩いて、そうかからないくらいで見つかった。茶色の建物で、窓を数えれば3階建てなのが判る。


「ルシア?喋っていないが体調でも悪いのか?」

 先程から一言も喋っていないが、どうかしたのだろうか、聞いて見るが首を振るだけで答えは帰ってこない。入り口を入ると、正面にカウンターがあり、左側に酒場が併設されていて、すでに出来上がっている人もいる。右側は待合室の様だ。


「宿をお願い出来ますか?」

 カウンター越しに男性に話しかける。愛想は良くない、接客業なのだから愛想は大事だと思うが成り立っているなら口を出す必要もないか。


「食事付きで一泊銀貨八枚。……確かに。部屋は二階の端だ、それと三階には上がるなよ。三階はある人の貸切だからな」


 部屋へ向かうが、三階を全て貸し切るとは、とてつもない金持ちか。関わり合わない方が無難だな。

 一番奥の部屋は寝台が二つ……今回は助かった。テーブルに椅子が二つ広くはないが、これくらいなら充分だ。銀貨の残りは四五枚。王都を出てから給金を受けてないし、そろそろ働かないとな。とはいえどうやって?冒険者ギルドには行き辛いし、宿舎にでも寄って聞いて見るか。それと天才魔法使いの事も……



 それにしても、ルシアはどうしたんだ?部屋に入ってもローブを着たまま喋りもしない。


「ルシア、どうしたんだ?何かあったら言ってくれなきゃ判らない」

 彼女がフードを取ると、その両目からは涙が溢れていた。一体何があった?何か気に触るような事をしてしまったのか?どうもこの手の展開は慣れてないし、イケメンなら上手く慰められるだろうが生憎とそのようなスキルも無い。


「ごめんね……ヒック……泣くつもりじゃなかったんだけど……ック……路地で叩かれている同胞(なかま)を見ちゃって……ボクはこんなに幸せなのに……ヒック……不公平だなって……助けにも行けない……そしたら、マコトに迷惑をかけちゃう……ヒック」


 そのまま泣き続けるルシアを抱き寄せ、頭を撫でる。差別が悪いのか?(しいた)げる人間が悪いのか?(あが)う事をしない亜人が悪いのか?俺が生きていた頃だって差別はあった。


 自分には実害が無いと知っていて知らない振りをした。……それが正しいのか?


 行動に起す事もしなかった。……実害がないから?


 それをすれば社会の弾き者にされるのが判っていたから。……みんなと同じでいたいから?


 それを行う力も無いから。……今は?



 目に映るもの全てを助けてそれでどうする?そこから先は?また同じ目にあったら?そのたびに助けるのか?目の前の事で精一杯なんだよ!他を気に掛ける余裕なんて俺には無いんだ!勇者と一緒にしないでくれ!



 気づけばルシアは泣き疲れたのか、体重を預け眠っていた。ふと以前の世界での出来事が脳裏を横切る。これは忘れもしない出来事だ。レイトバードの家名をくれた勇者とのやり取り。あの時も勇者と差別についてやり取りをしていたな。いつかは君も判るときが来るなんて言っていたけど、相変わらず判らないままだよ……



 ルシアを寝台に寝かせ、街へと出る。まだ日もあるし金の事、魔法使いの事、アンデットの事、聞きたいことは山ほどある。その為先ずは兵士の宿舎に向かう。あのときの彼が居てくれれば良いんだが……


 道を歩きつつも、先ほどの内容を考えてしまう。もし、この差別が仕組まれたものなら、元凶を潰してしまえば簡単だ。だが、そうでないのなら?やはり答えなんて出るわけが無い。前方をよく見えていなかったので、誰かとぶつかってしまった。


「申し訳ありません。考え事をしていまして、よく見ていませんでした。お怪我はありませんか?」


 目の前に倒れているのは、黒いローブに黒いとんがり帽子、手に持つ杖まで黒一色だ。見るからに子供。


「何するのよ!このデカブツ!ちゃんと目付いてるの?といか前見て歩きなさいよ!いい?この私にもしもの事があったら、あんた生きて帰れないわよ!」


 この子供(ガキ)が……叩き斬ってやろうか……


「酷い言われようだが、こちらが悪いんだ。仕方ないか……大丈夫か?本当にすまなかった」

 手を差し出し、引き起こす。黒髪は首の辺りまでで短く、薄い茶色の瞳……は、かなり怒っているのが見て取れる。


 起き上がると同時に手を払われ、更に罵倒を浴びせられた。


「いきなり、口調を変えたわね!何?子供だと思ってバカにしてるの?私は立派な大人よ!見た目で口調を変えるなんて、(ろく)な教養もないんでしょ?本当の紳士は見た目で判断しないのよ!わかったら口調を直してさっさと消えない!」


 やはり、叩き斬った方が街の為か……


「申し訳ありませんでした。碌な教養も無い田舎者はお目汚しでしょうから、これで失礼します」


 早口で()くし立て、さっさとその場を離れる。なんなんだあの子供(ガキ)は、勇者(アレシア)聖女(リース)の方が何倍もマシだ、あの二人は逆の意味で子供らしくないが……


 入り口にはまだ先ほどの兵士がおり、彼に声を掛ける。


「さっきは世話になった。色々と聞きたいことがあるんだけど、まだ職務中かな?」

「まだ、斥候(せっこう)も来てないので、ここでなら大丈夫ですよ」


 ならば、色々聞いておこうと思ったのだが、後ろから声がかかる。


「貴方様が王都からいらした近衛騎士様でしょうか?私はこの街の警備責任者、ドルクと申します」


 厳つい顔に、茶色の髪は回りだけに生えており、頭頂部は眩しく髪が無かった。


「これは、ご丁寧に。私は近衛騎士、マコト=レイトバードと申します。書状は確認頂いた通りです。この街に発生したというアンデットの発生の原因とその排除が任務です。王都より騎士団も参りますが、なにぶん準備に時間が掛かるとのことで先遣として参りました」


 ドルクに連れられ、宿舎へ向かう。本日二度目の驚愕を知らされるとも知らず……

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