第34話 決断
「シュベルト君、何処にいますか?獣王を知りませんか?」
リグハルトから様からの焦りの篭った声が聞こえた。遠くの仲間と連絡が取れるように念話という魔法がある、彼はそれを使って無数の配下と連絡を取り合っているため情報の伝達は非常に早い。
「デュオン様と一緒に、城におります。どうされましたか?」
「とにかく直ぐに先ほどの部屋へ戻ってきてください。非常にまずい事態です、龍王も戻っています」
かなり緊迫した状況のようだ。
「デュオン様、何やら状況が変わったようです。戻りますので、手を失礼します」
「どうした?何があった?」
「私にも詳しい事は、リグハルト様より至急戻るようにと」
彼の手を取り、再度転移で元の部屋へ戻ると、先程までの部屋とは思えないほど荒れておりその元凶は誰の目にも明らかだった。
リグハルト様からの説明は、何とタイミングの悪い、そして最悪の知らせだった。
ジルクと共に城を出た直後、リグハルトの部下より伝令が入った。
王都最北端の街、メクレンでアンデットが大量に発生した。その情報自体は知ってはいたがその原因が予想しなかったものだった。人間による魔法実験の失敗、そしてアンデットになったのは数千の同胞だという。実験の内容までは判明していないが、それでも数千の同胞の命が失われた、これを聞いていたのがアデーレだった。
「リグハルト、もう一度聞く。メクレンでの報告に間違いは無いのだな?」
「事実でございます。」
短く答えると、椅子を蹴り上げそこら中に怒りの矛先を向ける。
「こんな感じで、私たちにも手がつけれない状態なのですよ。シュベルト君なら何とかできるかと思いましてお呼びたてしました」
自分だってあんな状態のアデーレに対処なんて出来るわけが無い。それでもゆっくりと近づいて行く。
「アデーレ様、落ち着いてください。王都の件はどうなるのですか?正確な情報を得ましょう。対策はそれからでも遅くありません」
暴れるのを止め、肩で息をしているのを整えている。顔をあげた彼女に全員が息を呑んだ、魔王の表情は悲しみと怒りが同居しているようなそんな表情だった。目からは涙を浮かべるが、それが血のように赤く、唇を強く噛み締めれば、そこからも赤い血が滴り落ちる。
「シュベルト、すまない。我慢も限界だ。王都の件?遅くない?何千と命を落としたものが既にいるのだぞ!全面戦争だ!人間を全て駆逐してやる!そうすれば王都など関係ない!」
「待ってくださいアデーレ様!それではデュオン様に言った言葉はどうなるのですか!それでは貴女の発言が意味を持たなくなってしまいます!どうかお考え直しを!デュオン様!貴方からもお願いしてください!
まだ魔国は始まったばかりなのです!」
デュオンは目を閉じる。考えるのは苦手だがそれでも今はその時だ。国は大事だ、多くの民が住んでいる。だが人間の脅威に晒され、正直戦争となっても意気揚々と戦地へ赴く戦士は少ない。そんな怯えた生活に嫌気が差し娘は出て行ってしまった。魔王の庇護下に入る。それが気に入らなかった、守ってもらうなど王としてのプライドが許さない……だが!あの魔王の涙が血のように赤い。そこまで民の事を考えている
のか、あれを見ればどれだけ怒りを堪えているかなど容易に想像できる。プライドが許さないのではない、民を守れない自分が許せないのだ。怒りに任せて突撃するのは簡単だが後がない、今は牙を磨ごう。いつか同胞を救う剣となる為に。
「アデーレ様!ご指示の通り獣国の民を魔国へ移住させて頂きたい!そしてその為に、悪魔王殿、龍王殿、側近殿、力を貸して欲しい。その為ならばこのデュオン!魔国の為、粉骨砕身で働かせて頂く所存!」
あのプライドの塊である獣王が片膝をつき、臣下の礼を取った。
「デュオン、すまない。お前には辛い決断をさせてしまった。恨むなら私を恨んでくれ。お前の覚悟はしかと受け取った。ならば私もこの怒りを納めなければならないな。リグハルト、ジルクは予定通りに行動せよ。シュベルトはデュオンと共に移住地を選定せよ。可能な限り希望に応えよ」
魔王軍は行動を起こす。ワイバーンは亜人を乗せ移動。それを繰り返す。その指揮を執るのは悪魔王。
龍王も自らの背に乗せようとするが、咎められる。デュオンらは居住地を探し、その場所を定めた。魔王城に近い、森の中、川が流れておりそこには自然の恵みが多くあった。その後、獣国は無人となりその居住区は悉く破壊されてしまったが、獣人らに悲壮感は見られない。一回り大きくなった獣王。それよりも強力だが、民を愛する美しき魔王。それに応える為、獣王を筆頭に獣人達は牙研ぎ始める。同胞を救うのは勿論だが、魔王の剣と成るべく更に強靭に更に鋭く
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「伝令!南に飛龍の群れを確認!ですが、こちらの様子を伺う事もなく、同じ所を何度も行き来しているように見えます」
王都より出陣した軍、その数五〇〇〇、獣人を盾にすれば仲間意識が強い亜人は攻めてに欠ける。そこで後方より人間のみが使える隷属の魔法を使い、捕まえる。奴隷にするには手順があるが捕まえて連れ帰るくらいは出来る。総司令官は王宮内でも強い力を持つエルン伯爵だ。勇者との会合を強く望み、自分の息子と婚約させ更に権力を欲するまさに強欲の塊のような男だ。
「飛龍か……こちらの手勢だけでは、心許ないか。よし、冒険者ギルドに依頼を出せ。金はいくらでも出す。少なくてもAクラス以上の手錬をよこせと言っておけ。ギルドマスターには貸しがある。それと、補助としてメルフィーを連れて来いと付け加えてな」
息子と勇者の会合は上手く行かなかった、ならば聖女とも思い、会合してみたがこれも良い返事をもらえなかった。息子と彼女らは親子ほどの年齢の差がある。しかし、貴族社会では特段珍しい事ではない。冒険者ギルドのメルフィー、彼女は元Aクラスで補助魔法も使え、尚且つ見た目もいい。ギルドマスターの片腕として冒険者を続けていればSクラスも間近と聞いた。それが何故受付等をやっているのかは知らないが……
「グランを呼べ、先行隊の編成を行う」
そう従者に指示を飛ばす。王都より進軍したばかりで尚且つ、五〇〇〇の兵では進軍も中々進まない。であれば先行隊を派遣して陣営の設置や敵勢力の確認も必要だ。それに、ここで手柄をあげれば王宮内での地位も更に高まる。自分の野望の為、薄汚く笑みを浮かべる……
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王宮内勇者の自室。珍しくアレシアが思考の海に沈んでいる。午後のお茶をしにきたリースの相手もせず手に持つカップの中身はとっくに冷え切っていた。
『今までこんな事は無かった。メクレンでのアンデット騒動の後は、新魔王の戴冠式と彼女が合流する。この2つだけのはずだ。それが戴冠式の情報も無く未だ彼女の情報も無い。五〇〇〇もの兵を派遣する事件なら、覚えていないはずが無い。となれば……彼が来たせいで変わってしまったのか?ここまで大きく変わることなんて、無かったはずだ。これからは、慎重に行動しなければならないかもしれない。これから起こる事は私も経験した事が無いのだから……』
「……レ……ア?……アレシ……?アレシア!」
とたんに大きな声が響き、思考を現実に向ける。リースが怒ったような顔でこちらを見ている。
「どうしたの?そんな怖い顔して、可愛い顔が台無しだよ?」
「どうしたの?じゃないわよ。何度呼んでも返事をしないし、お茶も冷めちゃっているじゃない。どうしたの?心配事?」
今までは、起こったことをなぞって来ただけ。これからは未知の領域だ。不安が無い訳は無い。
「そうね……ごめんなさい。少し気になることがあってね」
冷めたお茶は非常に不味い。まるでこれから良くない事が起こる前触れに感じた。




