第2話 初戦闘
「いつも思うけど、地図が欲しいわ」
深い森の中でごちる。
この世界に来て半日程が過ぎたが、よほど深い森なのか村や街の気配がない。
「まさか人いないのか?魔力反応あっても人いないって今迄あったか?」
数えきれない過去を思い出そうと試みるが即座に諦める。
「思い出せる訳ないよな……せいぜい3〜4回前ならできるけど全部いたしな。いないならいないで、やり易いから良いんだけど……ヤバイ孤独過ぎて、泣きそうだ」
気配を感知して、戦闘態勢に移行する。
左手の青い刀身の剣を抜き半身に構える。
色々な世界を渡り歩くが初戦闘はいつだって死にものぐるいだ。強い自覚はあるが、それは前の世界の話、今の世界でどれほど戦えるかはわからない。雑魚にも苦戦する程なら?
装備品は前の世界では最高級品なのでこちらでも役に立つだろうが、自身が弱ければ意味がない。
「!? 囲まれたか。人……じゃないよな。気配が違う。森と言えばエルフ!……だと嬉しいね」
軽口を言うのも緊張を解すため。実際はかなり余裕がない。
ヒュッと右足の前に矢が刺さる。
狙ったものかはわからないが思わず安堵してしまう。
『ゲギァ』
鳴き声と共に出てきたのは、全身が緑色で百三十センチ程で所々皮を巻いた小鬼の群れ。中でも口から覗く大小の牙が物々しい。一体なら良いがまさか初戦闘が二十体程の群とはツイてない。
「見た目的にとりあえずゴブリンって事で」
言うが早いか一気に距離を詰める。ゴブリンは反応出来ておらず青い刀身の剣をその身に受ける。
一閃。剣はまるで手答えもなく魔物を両断する。俺の全力はこの世界でも通用するらしい。
「だいたい分かった。ある程度は俺でも戦えるな、最後まで付き合ってくれよ!」
刀身を振り水の礫を高速で発射する。
振り上げられた剣を小手で弾く。
放たれた矢にはギリギリの所で躱す。
頭部目掛けての蹴り、突き。
周りにはゴブリンの死体が増えていく。
「あんたで最後か?なら試させて貰う!」
距離を詰め、背後を取る。ゴブリンの背にスッと掌を当てる。
------参式 龍壊------
ズドン!轟音が響きゴブリンが跡形もなく消えた。
「これも通用するな。おかげで大分掴めたよ。ありがとう」
ゴブリンとの戦闘後、残った死体を纏め赤い刀身の剣で燃やす。何処かの世界では魔物の死体を放置すると、アンデットとしてより強力になると聞いた。やっておくに越したことはないだろうと炎を見つめ、先に進みだす。
「テンプレだと魔物に襲われそうな、美人を助けて村まで案内だよな」
何度となく繰り返す独り言。気を紛らわせる為に何度もイメージを膨らませる。
ズドン!大きな音が響き、ビクッとするが口元が歪む。
「来た来た!テンプレ!」
音の方角へ向かい、木々の間を走り抜ける。
「どれどれ〜絶好のタイミングを見計らって助けないと……」
木々の間から様子を伺う。ある程度離れているが問題ない距離である。
嬉しそうな顔が徐々に崩れていくのが自分でもわかる。
そこには金属鎧を身に付けた十人程の男達が巨大な熊と対峙していた。
「男かよ」
短いため息をだし、心底残念な声を出す。
熊が腕を振るえば、周りの木々がへし折れる。
あれを正面から捌くのはどれほど精強な騎士や戦士であろうと不可能に思える。
俺なら……どうだろう、出来ると思うが。
血塗れの者や体の一部が欠損し喚き散らす者もいる。全滅は必須であろう。
「おいおいおいおい!なんでそこに子供がいるんだ⁉︎」
視界外から十歳程の少女が現れた。
太陽の光を浴び輝く長い金色の髪
鎧や盾も無く、一振りの剣のみを持っている
何か言い合っている様だが、当然聞こえるはずがない。美人でも女性でもないが、子供を見捨てられる筈が無い。足に魔力を集め一気に解放して、あの子供の前へ出るんだ!
「待ってろよ、お嬢ちゃん!」
飛び出すその瞬間
「!? なんだ……今の」
一瞬だけ戸惑う。感じたのは物凄い殺気。熊や金属鎧の男に向けた訳ではなさそうだ。
あれ程の殺気だと魔物や男達なら気を失っても不思議じゃない。
「殺気⁉︎ 何だ……これをあの子供が?こっちを向いている訳じゃ無いって事は俺が見えているのか?」
気の所為だと信じたい。距離は相当離れている。ましてや此処は森の中。気づく方がおかしいだろう。