第25話 魔王の実力
ブックマークが増えました!ありがとうございます!書いていて楽しいキャラだと時間が経つのも忘れます。後1話で第2章が終了します。また、章のタイトルを変更しました。
お楽しみ下さい。
その場所は広く円形状になっている。宛ら闘技場を模した作りになっており、何段も高い場所に作られた椅子には豪華な装飾が施されている。新魔王を紹介する場でもあり、彼女が力を示す場として用意されたとしている。示すのはアデーレではないが、そうでも言っておかないと、あの闘い好きはこの場に来ないだろう。自らの赴いて招集した部族のうち返事を貰ったのはわずか3部族。総数にしておよそ3000程。後は来るか来ないか判らない。だが必ず観察しているはずだ。
龍族:長寿、保有魔力も絶大で龍族言語でのみ使える固有魔法まで所持している種族、前魔王に服従をさせられ新魔王に対しては中立を保っている。
獣族:攻撃に特化している者。技法は身体強化の他、咆哮という威嚇の魔法が使える。強さが全てなのでアデーレとは気があう。
悪魔族:非常に狡猾で、魅了や精神支配系の技法を得意としている。気まぐれで契約に縛られる。前魔王とも何か契約をしていたようで種族全体で魔王に忠誠を誓っていた。
「エルフも居れば良かったのですが、彼らには王が居ませんからね。3部族だけとはいえ、此処までの顔ぶれとは、新魔王様もなかなかに人気者ですね」
闘技場全体がザワつき新魔王登場を待つ。突然爆音と共に闘技場の一角が崩れ、そこから一人の女性が姿を現わす。アデーレの装いは肌の露出が少ない黒い鎧姿に真紅のマントだ。本人は軽装を望んでいたが立場があると説得に時間がかかってしまった。ゆっくりと中央を歩き、階段を上がって行く。椅子に座る直前にマントを翻す。
「よくぞ集まってくれた。前魔王ルベールを降し新魔王に付いたアデーレだ。今回は就任の披露目と聞いたが、ややこしい話は好かん。魔王に言葉は不要。力を示すのが手っ取り早い。誰でも構わない、我と戦い勝者には、この地位を譲ろう。但し力を認めたとなれば忠誠を誓って貰う。さあ!誰から来るのだ?纏めて相手をしても良いぞ。おっとそうだ、その前にやるべきことがある。しばし待ってくれ。」
一瞬で消えたかと思うと、闘技場の隅に陣取っていたシュベルトの前に現れる。
「側近殿?コソコソ企んでいるようだが、愛すべき男の隠し事程度見破れないとでも?悪いがさせぬ、これは私の戦いだ。シュベルトといえど邪魔はさせぬよ」
アデーレは微笑むとシュベルトの鳩尾に拳を叩き込むと苦痛で崩れる彼に背を向ける。
「大丈夫、負けない。負ける訳がない。私とシューちゃんの夢は誰にも邪魔させない。」
「さあ待たせたな、邪魔はこれで入らない。遠慮は無用だ」
構えを取ると、何処からか声が上がる。
「勝ったら魔王様が嫁にもなってくれるのか?」
「おお!構わない。嫁にでも何にでもなってやろう。だがそう簡単にこの身を孕ませられると思うなよ!」
言うと、アデーレは言葉を発した獣人の元へ向かうと顔面を殴りつける。錐揉みしながら反対側の壁に激突し、獣人はピクリとも動かない。一瞬の静寂後、凄まじい雄叫びと共に乱戦が始まった。
アデーレが使える技法は身体強化のみ。それ以外は使えない。だが、彼女の放つ拳や蹴りは膨大な魔力を纏いその威力を何倍にも跳ね上げる。格闘技術と魔力を合わせた魔王独自の戦法だ。魔力を炎や風に変換して放つが変換する際にロスが出る。100の魔力で炎の魔法を放つと威力は85といった具合だ。彼女は魔力そのものを身体に纏う。100の威力が魔力によって200にも300にもなる。そこに身体強化が加わり、接近戦で前魔王をほぼ単独で打ち破っている。
「フハハハハハ!どうした、どうした勇敢な者共よ、我はまだ片膝すら付いておらぬぞ!」
炎や氷が襲いかかるが、それを拳で打ち抜く。獣人の咆哮に対しては、自らの大声で打ち消す。半分程になってもアデーレの攻勢は衰えない。寧ろこの辺りから、本調子になり手が付けられない。その証拠に三度の打撃で貫いていた龍の鱗を今は一撃で、殴り飛ばせば後ろに居た者を纏めて壁へ叩きつける。ますます絶好調になるアデーレを漸く動くようになった身体を壁に預けシュベルトが見守っていた。
「本来なら、私が出るはずでしたのに……参りましたね。最初に倒されるとは……」
戦いが始まる直前に、技法で動きを止め、範囲攻撃で殲滅。側近にも勝てないのに魔王に勝てるはずが無いと知らしめる予定だったが、見抜かれていたのか。表情にも出していなかったし言うはずもない。そう言えばよく隠し事バレていたな。彼女曰く女の勘だとか……
「ですが、やはりあのお方は闘っている姿が良く似合っていますね。本当に美しい」
「全くその通りですね。シュベルト君」
答えに横を見ると、自分と同じような燕尾服を着てはいるが、所々着崩しておりその色も赤と黒で非常にアンバランスであった。
「悪魔王……リグハルト様……」
魔族の中でも有力な悪魔族その頂点に立つのが悪魔王、それに彼の名前は初代魔王と同じであったことが彼の存在を大きくしていた。
「ふむ。闘う姿が美しいか……主の言葉も一理あるな」
反対側には黒く大きな翼の生えた背中に、腰から伸びる尾には所々剣の様に鋭い棘が幾つも生えていた。
見た目は白髪の老人のようだが肉体は鍛え抜かれたように筋肉隆々な様子が薄手の衣からでも手に取る様にわかる。
「龍王……ジルク様……」
龍族の王ジルク、人型になれる技法を生み出し、齢1500年とも2000年とも言われる最強最古の龍
「俺達ゃ最初から魔王様に忠誠を誓っていいと思っていたからな。あの強さなら納得せざるを獲ないな」
壁の頂点に腰掛け胡坐をかきながら闘いの様子を見守るのは銀の胸当てと革であしらえた腰巻、鬣は百獣の王を模している。
「獣王、デュオン様・・まさか三王が揃い踏みとは、私がいて良い場所ではないですね」
「いやいや、君がいないとあの脳筋バカが止まらないからね。君の実力もわたしは良く知っている。むしろこの場所がいるべき所だろうに」
魔王を脳筋とまで呼ぶリグハルト、シュベルトが会得した技法のほとんどは彼から直接手ほどきを受けたのだ。そうこうしている内に最後の一人が倒され、ついには本当に一人で全てを倒してしまった。
「三王よ、シュベルトに手を掛ける様なら肉片一つ残らない覚悟で行うのだな」
アデーレが殺気を放ちながらゆっくりと近づいてくる。
「リグハルト、デュオン、取り決め通りでよいな?」
「俺はそれでいい。アンタのアレが見られるとは嬉しい限りだ」
「私も結構ですよ。悪魔王の名に懸けて」
ジルクは頷くと、アデーレと向き合う。
「アデーレよ、龍族、魔族、獣族は新魔王としてそなたを認め忠誠を誓おう。側近シュベルトよ!そなたもまた魔王側近としての地位を認め、忠義を示す。だが!これを受け止メルカ、躱セレバの話ダ!」
ジルクが人化の魔法を解くと、巨大な銀色の龍へと変貌する、これが龍王の本来の姿なのだ。
「面白い、最強最古の龍の固有技法どれほどのものか見てやろう!」
「ソウコナクテハナ、@&%$#=+*!~×△%$」
「あれが龍族言語……初めて聴きましたが、言葉一つ一つに凄い魔力が込められているようですね」
リグハルトはシュベルトに対し血のように赤い液体を振り掛けると彼の痛みが徐々に消えていく。
「さあ、魔王の元へ。龍王の試練はあなた方二人で何とかしてください」
「シュベルト!魔王の後ろには同族が倒れている、避ければ皆殺しだぞ?頼んだぜ」
アデーレの隣に立ち龍王と対面する。それだけで物凄いプレッシャーを感じる。手足は振るえ呼吸も早くなり、まともな思考が出来ない。何とかしなくては、でもどうやって?固有技法だけでも滅多に目にする機会は無い、龍王のとなれば尚更だ。いざとなれば自分が盾になって彼女だけでも生き延びさせねばならない。こんな所で終わっていい人物ではないのだ。
----バンッ----
背中を痛いほどに叩かれた。横を見ると先程までの殺気に満ちた顔から穏やかな顔になっているアデーレが微笑みかけてくれた。
「大丈夫」
その一言だけで、自分の見えていた世界が大きく広がるのを感じた。
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