第24話 動き出す歯車
あのお方の再登場です。女性らしさを持ちつつ尊大な態度の中に一本筋の通ったキャラ設定ですので書いていて楽しいお人です。お楽しみください。
勇者の仕業か。全く何が楽しくて告白をさせているのだ。
リースも可愛そうに、ヘタに煽られて言わなければならない状況に追い込まれているのだろう、本当に気の毒だ。だが、断るよりもこの状況なら有耶無耶にしたほうが良さそうだ。
「隠れて見ているなんて、勇者として如何なものですか?」
「え!? アレシアが?」
キョロキョロと辺りを伺っているリースに祭壇を指差す。彼女は祭壇まで走って行き、そこに居た勇者と対面を果たす。
「リース?ごめんね、だって心配だったし……それで……つい……」
「アレシアのバカ!言ってくれれば……ッ……ヒック……×@=・%&」
泣きながら話すリースの言葉はもはや解読できない。遠目から見れば仲の良い少女二人なのだが成人すれば戦地へ赴くことになるかと思うと、居た堪れないな。
「こちらに居られましたか!大至急王の下へ!勇者様!聖女様!」
声を荒げ、一人の騎士が二人の元へ駆けてくる。行く手を遮り内容を先に聞く。
「勇者様の近衛騎士です。何事ですか?」
「貴殿には関係の無いことだ、そこをどけ!私は団長から命を受け、お二人を謁見の間までお連れするのだ」
強引に道を行く騎士の肩を掴むと
「もう一度言います。勇者様の近衛騎士です。我が主人に何用ですか?」
「貴様・・手を離せ!怪我をしたくなければ言う通りにしろ!」
騎士が剣に手をかける。すると祭壇から大きく、とてもよく響く声がした。
「二人とも、それ以上はなりません!剣を抜くというならこの私が相手になります」
アレシアが剣を抜き、ゆっくりと近づいてきた、その表情は先程までとは別の勇者の顔だった。
少し後ろを歩くリースも泣き顔ではなく聖女として凛々しく佇んでいた。
「お話はわかりました。陛下の元へ伺います。マコト、下がりなさい。これは命令です」
勇者達を見送る際に放たれた騎士の言葉は、恐らく王宮にいるほぼ全ての者達の代弁であったと思う。
「身の程を弁えろ、勇者の犬が」
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黒い燕尾服を着た男が、目の前の机に腰掛けている女性に今起きていることを詳細に説明している。
椅子ではなく、机に腰掛けている女性は燃えるような短く赤い髪に、ほぼ黒で統一された服は所々肌が露出されており裾の短いスカートからは妖しげな魅力ある足がスラリと伸びている。
「それで?今、事を起して勝算はあるのか?」
頬杖を付き胡坐を組むと、下着が丸見えになってしまうが目の前の男は全く様子を変えない。女性も気にしている様子でもない。
「今回の件は我々の関わり知らぬ所です。ですが、勇者が王都いますので出てくれば直ぐに収まるでしょう」
「勇者ねぇ……強いのか?」
男は答えない。答えを間違えれば女性はすぐにでも勇者の下へ飛んでいくだろう。女性にはここに居て貰わなければならない。この後に控える重要な案件には彼女の参加が不可欠なのだ。焦らず、表情も崩さず、しかも間違えずに答えを探す。
「どうした?答えないとは、らしくないじゃないか。それ程に強いのか」
女性が怪しく笑う。この表情はまずい、勇者に会う気だ。正直に話す他無いと男は大きくため息を吐く。
「強いですね。ですが、どの程度強いのかと聞かれると答えられませんね。ハッキリとしていないので、どうやって答えてよいか迷っていました」
「お前が答えに迷うなんて珍しいじゃないか、側近殿?」
「貴女のように、即断即決が出来ないだけですよ。魔王様」
「安心しろ。この後に控えている案件の重要性は理解している。魔王になれば好き勝手暴れられると思っていたが、そうも行かないのだな……」
アデーレは頬杖の手を変え、胡坐を組みなおす。下着が見えていることには全く気に止めていない。もちろん目の前の男がただ唯一信頼できる自分の相棒と知っているからであり、むしろこの男が下着を見せる程度で発情してくれるのなら、有難い事は無い。
「流石でございます。魔国を統べる王としてご立派な心がけです」
机から飛び降り、男に寄り添う。大きな胸を男の腕に当てて足を絡める。
「せっかく二人きりなのだ。昔のように呼んでもいいのだぞ?シューちゃん。」
「私は魔王アデーレ様の側近、シュベルトです。お戯れはその位で、それよりも間もなく皆様到着される頃合です。御召替えをお願いします」
気づくと、シュベルトが扉の前に移動していた。
「また転移で移動したな……だが、私にも考えがある。昔のように呼ばないのなら此処から出ないし、王都に行って勇者と一戦交えてくるぞ!どうだ、これでも呼ばないか!」
「召還」
シュベルトが右手を払うと魔法陣が現れ、そこから服の面積が異常に少ない数人の女性が現れた。扉に手をかけ部屋を出る際に一瞬立ち止まる。
「魔王様の御召替えの手伝いを頼みます。私は皆様をご案内しますので。早く着替えちゃってねアーちゃん」
音も無く扉を閉め、歩き出す。
『うおおおおおおお!よっしゃあああああ!』
アデーレの雄たけびを聞いて、自然と口元が緩む。ここからが重要だ、魔国に住まう者共に魔王への忠誠を誓わせる。これが出来ればアデーレが望んだ野望に大きく近づくのだ。彼女は強くなった、前魔王を屠るほどに。対して自分はどうだろうか、魔法しか誇れるものが無くそれでも前魔王には及ばなかった。そこから死に物狂いで会得した魔法の数々。今なら出来る……いや示さなくてならない。魔王の側近であることを。
これから起こる事は、魔王にすら言ってはいない。全ては自分の独断で動くのだ、実力が全ての魔国では力を示す以外に方法が無い。では他のやり方で力を示せばとも考えた。色々方法も考えたが、これが単純でいてシンプルでもっとも効率がいい。
「さっさと終わらせたいですが、そうも上手く運ばないでしょうね。それにしても人間は自らの行為を悔やむということをしないのですかね……」
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謁見の間から戻ってきたアレシアの表情は非常に硬い。一緒にリースも来ている事から旅立ち……には早いか。成人は十六歳からだしな。
「マコト、仕事が出来ました。王都の北メクレンへ行ってもらいます」
「畏まりました。出立はいつでしょう?」
「明日、日の出と共に」
メクレンか……王都の北……というか最北端の所だな。移動に馬を使って二ヶ月といった所だ。
「では準備に取り掛かります。その仕事の内容を伺ってもいいですか?」
どうも、アレシアやリースの様子がおかしい。言葉を選んでいるような感じがする。
「メクレンでアンデットの大群が発生したと報告があり、その鎮圧が任務なのですが……」
「ハッキリ言ってくれて構いません。遠まわしに言われても察することが出来ませんので」
アレシアから聞いた任務は当分王都へは帰って来られないだろう内容だった。部屋を出て行くときリースが大泣きしており、アリシアに宥められていた。準備をしつつ任務の内容が書いてある書面に目を通していく。大雑把に言うと……
メクレンでアンデット発生の報告があり、それの鎮圧に騎士団を派遣する。準備に時間を要する為、先遣隊として直ぐに動ける勇者の近衛騎士が現地へ赴き、民の救援及び原因の究明とその排除。アンデットが発生しなくなるのを確認後、王都からの使者の指示に従う事とある。
左遷だな、確実に。貴族や騎士から評判が良くないからな。無理もないか、しかしなかなか腰を落ち着ける場所が出来ない。メクレンでは、大人しくしているのが正解だな。
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