第23話 純白の聖女
色々な作品を読ませて頂くと、プロローグから面白いと思える作品が多いです。色々と直したいところもありますが、まずは完結目指して頑張ります。どうぞお楽しみください。
訓練場で向き合う。それぞれが持っている剣は訓練用ではあるが鉄で出来ているため当たれば当然痛い。刃を潰してあるので鉄の棒と一緒だ。勇者には構えも無く、右手に剣を持ち自然体だ。
「では、始めましょう。言っておきますけど遠慮は無用ですよ?」
はたから見れば少女に対して成人男性が殴りかかる図式に見えるが、全くの逆で毎回ほぼ一方的に殴られて終わるので今回はフェイントを入れてみようと思案する。
「殴られたからといって、牢に入れるのは勘弁してくださいね!」
一気に距離を詰め、振りかぶると、勇者はまだ反応しない。一瞬手を止め、足で砂を蹴り上げると剣を持つ手と逆に左に回りこみ突きを入れる。
----ギィィィン----
鈍い音がする、やはり防がれていたか。体制はそのままで右足で蹴りを放つが、空を切りすでに勇者の姿が見えなかった。気配から後ろから攻撃してくるのが判ったので剣を頭の後ろに回し、両手でしっかりと支える。
----ギィィィン----
「意外と成長してますね。」
「いつもぶん殴れてりゃ、いやでもそうなりますよ」
「では次の段階です。防げますか?」
勇者から速い突きが連続で飛んでくる。というか、速すぎる。突きの初動は同じところから発せられる。ならばと突きを身体ごと捻ってかわし回し蹴りを手に向けて放つが、しゃがんでかわされる。ここだ!
蹴りを途中で止め、頭上からの踵落とし……はすでに勇者の姿が消えた地面に叩きつけられた。
ここで意識を断たず勇者の気配を探ると頭上からの一撃をバックステップで躱す。大きな衝撃音と同時に地面が陥没していた。
「良い反応です。やはり強くなっていますね」
「あの一撃は殺す気ですか?ストレスを私にぶつけるのは止めてください」
今度は勇者から距離を詰めてくる。左からの斬り上げを状態をそらして躱す。右手が襟元を掴みに来るのでこちらは左手で払う。勇者が回転し左からの斬り下ろしを放つ。ここだ!
-----秘伝 垂柳-----
剣と剣がぶつかった一瞬に力を抜く。無理に打ち合わずに受け流せば、勇者のバランスが崩れ背中が無防備になる。力任せに打ち付けたいが、女の子だし寸止めが無難かと一瞬だけ迷ってしまった。
「だから遠慮は無しと言ったんです」
身体を前転のように回し、勢い利用して踵で剣を弾かれた。あの体勢からでも攻撃してくるのか、勇者となるとここまでの力をどうやってつけたのか気になる。この1年王都で急激に力をつけた者がいるか聞いて回ったが、勇者の事じゃないか?という意見が多かった。そろそろ試してみようか。
剣を拾って貰い柄を向けられる。
「まだまだ出来ますよね?」
どれだけ訓練好きなんだ、奥へ目を向けると訓練場の奥から向かって来る人物がいた。彼が来るのならこれで終了だな。
「残念ですが、魔法のお時間ですから、訓練はこれまでです」
勇者も奥を振り返ると心底嫌そうにため息をつく。
「仕方ないですね。先に戻ります。それとリースが逢いたがっていましたよ。人気者ですね」
リース=ウルト
回復や補助魔法の使い手で、貴族だけでなく平民にも分け隔てなく無償で治癒の魔法を使うと有名でアレシアと同じ歳だという。王城にある教会にいるが街に出て何か出来ることはないかと、外出していることが多い。容姿もアレシアと同じ様な愛らしく可愛い少女で純白の聖女と呼ばれている。
「余り面識がないので、お逢いになりたがる理由がわかりませんね」
確か王都に向かう際に馬車の襲撃があったが、その馬車に乗っていたようだ。王宮に来てから礼もされたしそれ以外ではほぼ関わりがない。
「マコト、いちいち理由がなくては貴方に会ってはいけないのですか?貴方が納得できなければ会う必要がないのですか?前から思っていましたがその考え方はやめた方が良いです。人は貴方とは違います、貴方が理由を感じなくても他の人はそうではないでしょう?裏を考えればキリがありませんが純粋に貴方と会いたいと思う人は少なくないですよ」
それだけ言うと振り向く事なく、自室へ向かっていった。あれが十歳程度の子供の言うことか?勇者だから、それだけで片ずけられる言葉じゃないだろう。まさか子供に説教される日が来るとは思わなかった。
「今更変えられませんが、気には留めておきます。お気遣いありがとうございます」
去りゆく背にお礼を言いながら、待ち人の所へ向かうとする。
そういえば、今日はボコボコにされなかったな。成長したのか?
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王宮は当然の事ながら広い。稀に自分の居場所がわからなくなり侍女に場所を訪ねて回る事も少なくない。教会は訓練場からは近く迷う心配がないのは有難い。
扉は開かれており、正面のステンドグラスは太陽の光でキラキラと輝いて見える。一人の少女が祭壇で像に向かって膝をおり熱心に祈っていた。薄いピンク色の髪は腰程まで伸びており身に纏う服は白一色、頭に乗せている帽子すら白だ。
邪魔にならない様にゆっくりと進み、最前列の席に座る。像は右手に矛を持っており左手には剣を携えている。姿は男性の様だが神様は性別が無いと聞いたけど……すると少女が立ち上がりこちら向いた。蒼い瞳は大きく、アレシア同じ色だ。若干目が開かれて驚いている。
「マコト様?いつからそこに居られたのですか?声を掛けてくだされば……」
「敬称を付けて呼ばれるほどじゃ無いです。聖女リース様、熱心に祈って居られましたので邪魔になるのは無粋かと思いまして、待たせて頂きました」
こちらが膝をつき頭を下げる。しかし天啓の勇者や純白の聖女と物凄い二つ名を持つと言葉使いも子供らしくない。
「聖女なんて大袈裟です。産まれ持った力が偶々治癒であったと言うだけです。冒険者の皆様や教会にいる者でも使える力ですよ」
「貴女様が、分け隔てなく接し治癒をしているのは真似のできない事です。報酬を受け取る者も少なくありません。それを無償でというのが素晴らしく、それ故聖女様と呼ばれるのです。誇って良いと思います」
そして成人すればアレシアと共に魔王討伐に向けて旅立つ事が決まっている。それまでの間王都で勇者と共に過ごし親交を深めるという名目で王都に移り住んでいる。アレシアと仲が良く違いを名前で呼び合い王宮を出る際も一緒に行く事もある。
「今日はどういったご用件でしょうか?マコト様が教会に来るのは珍しいですよね」
あれ?用があるのは聖女様じゃないのか?
「我が主人よりリース様が会って見たいと申されていたと伺い参上したまでです。ご用命があると思っておりました」
だんだんとリースの顔が赤くなっていくのが判る。急にモジモジとしだす姿も可愛いな……決してそういう趣味があるわけじゃない。これだけは神に誓って……
「アレシアったら……急に……せめて一緒に来なさいよ……でも逆にチャンスかも?」
何がチャンスなんだよ……未だに独り言が絶えない聖女様は、徐々にリアクションまで大きくなってくるそろそろ止めるか、見ていて飽きないが。一段落したのか胸に手を当て、大きく深呼吸をしている。
「マコト様?お……お慕いしている人はいましゅ……いますか?」
「いませんよ」
「本当にいませんか?」
「いませんね」
「アレシア……勇者様は?」
「従者のようなものですから。それ以外は何も無いです」
なんだこれは。あれか、身近の年上に恋しちゃってる女の子か?そんなに目をキラキラさせるのはやめて欲しい。どういう断り方が良いか考えていると、祭壇辺りで勇者がニヤニヤと笑っているのに気がついた。
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