第14話 意外な乱入者
もう少しで一章が完結します。皆様の楽しいひとときになれる様に頑張っていきます。ご感想、コメント、評価などお待ちしております。
-------メデューサとマコトが戦う少し前-------
赤い絨毯の上を背筋を伸ばし一人の男が歩いている。
手には男の腰から胸の辺りまで積まれた紙を両手でしっかりと持つ。黒一色に染まった燕尾服を着ており、髪は短く揃えられ、まるで一流の執事を思わせる。彼が向かうのは主人の元、溜まった仕事を片付けて貰わねば次の一手が打てない。嫌な予感を振り払いながら主人の部屋の前に立つ。紙の束を床に置くと一呼吸置いて主人の扉をノックした。
-------コンコン-------
小気味良い音を立てるが中からの返事はない。
-------コンコン-------
再度ノックをするが反応がない。
「ハァ……またですか仕方ないですね。召還」
男が呟くとメイド服らしいが肌を覆う部分が極端に少ない女性が現れる。
「其処の束を持って入りなさい」
主人の部屋は綺麗に整理されており、男が持ってきた束のおよそ5倍はあろう数が主人の机に無造作に置かれ、机には使ってはみたが、すぐに放り出された羽ペンが転がっており窓は開いたまま風がカーテンを揺らしていた。
「なるほど……少しはやる気なってみたが気になって仕方が無いので放り出して行ったみた・・・と、まだまだ子供ですね。しかしやる気になってくれたのなら多めに見ましょう」
執事は主人の椅子に腰掛けると、一枚ずつ紙を手に取り目を通していく。まるで本来の持ち主のように・・
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転がったメデューサを警戒しつつ、ゆっくりと近づいていく。あれで終わってくれればよいがそうもならない気がして仕方が無い。更に一歩、また一歩と距離を縮めるがピクリとも動かない。
そしてもう一歩近づくと
------シャアアアアアアア!------
いきなり立ち上がると同時に、攻撃してくるかと思いきや横に距離をとった。そこへ上空から物凄い魔力の塊が降ってきて、地面を陥没させる。上空に舞った砂埃の中から若い女性の声が聞こえてくる。
「お?良く避けたな、だがそれで安心するから3流なんだよ」
今度の声はメデューサのすぐ横からだった。女性は勢い良くメデューサの顔面を殴打する、短く燃える様な赤い髪が印象的な女性はそのままこちらに向かう。赤い瞳に肘の部分までを覆う黒い小手に足甲、胴と腰を守護する鎧も黒、窮屈そうに収まっている胸やくびれた腰、ミリアもそうだがこの女性も美女である。
「ふ~んお前がメデューサをヤッたのか?あれは意外と……いや……それなり?……まあまあ強いんだが人間にしてはやるじゃないか、どうだ?次は我と勝負するか?しかし、随分とボロボロだな」
「なあ?一応聞くが、助けてくれたのか?」
きっと違うと言うのだろう。何だがこの女性の考えることが判ってしまう気がしてならない。
「そんな訳無いだろう?お前はあれと戦って勝った。だからお前のほうが強い。強いのなら我と戦うべきだ!さあ!」
素晴らしく強引な理論に、正直ドン引きだ。
「な……なぜ……邪魔をす……るまだ……勝負は……ついて……いない」
すでに瀕死の状態で、殴打を受けた顔面は醜く歪み口からは血が滴り落ちるヨロヨロとこちらに近づくが行く手を遮られる。
「勝負はついたじゃないか、貴様の負けだあの一撃で貴様の相棒どもも息絶えた。それでもまだ勝て見込みがあるのか?本当にあるのか?」
女性は両腕を腰に当てメデューサと睨み合う。
「まだ……できる……」
実際こちらも満身創痍であるが今の状態ならもう少しで倒せるはずだ。女性が怪しく笑うと同時にメデューサの腹部に風穴が開く。
「き……さま……」
恨みの言葉を残し息絶える。
「勝負は決したというのに何故それがわからない?おい、人間、貴様はこうなるなよ?今ので戦う気が失せた」
「な・・なあ、あんたは一体誰なんだ?」
女性は黒く大きい翼を出現させる。
「おお!言ってなかったか!我は魔王、魔王アデーレだ。それではな人間。またいつか戦おう」
それだけ言うとアデーレは物凄いスピードで飛んでいってしまった。
暫く呆けていたが何とか現状を強引に理解する。
「取り敢えずかなりのダメージの与えたらしい、で、魔王の登場と・・一応メデューサは倒した事になるし、エリザさんの様子を見てこよう」
正直動きたくないが、それでも何とかすると約束した以上は完遂させる必要がある。フラフラしながらも進む。不意に前のめりに倒れそうになるがいつ迄経っても衝撃が来ない。
「精霊よ、彼の者に一時の癒しを」
背中から暖かな物を感じると、だんだんと意識がはっきりとしてくるし、両足で大地を踏みしめる事も出来る、振り返ると気まずい表情のロズさんに抱えられていた。
「ありがとうございます。大分楽になりましたが、俺は謝りませんよ」
「別に謝罪を求めている訳じゃないが、私は謝罪しなければならない。すまなかった、こんな事しか出来ないが許して欲しい」
頭を下げると、その影にミリアがおり、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「ごめんなさい。マコトばかりに頼ってしまって・・こんなに傷ついて・・・本当にごめんなさい」
「自分で言うのもおかしいけど、かなり頑張ったと思う。前にも言ったけど違う言い方をお願いしたいね」
言ってしまった後から後悔するのは前と変わっていない、もっと別の言い方があるだろうに……
「そうだね……いっぱい頑張ってくれたよね、マコト……本当にありがとう」
目には涙を溜めてはいるが、笑顔で言われるありがとうは本当に救われる気持ちになる。少なくとも今の自分が行ってきたことが間違っていなかったと他人から認められたと思うのだ。
「それを言ってくれるなら頑張った意味があるよ。さ、エリザさんの様子を見に行こう。ロズさんも一緒に来てくれますよね?」
黙って頷くと、2人の後を追いながら族長の家へ向かう。そろそろ次を決めなければならない、別れは来るのだ、それが早いか遅いかだけの違いなら早いほうを選ぶだろう。いつだってそうして来たがそのときの気分を考えると、毎回やりきれない気持ちになる……
リビングに向かい族長にメデューサ討伐の報告を行う、途中意外な乱入者に止めを刺されたが倒したことには変わりないのでありのままを報告する。魔王が代変わりをしたがそれ以外の情報が無く通常であれば戦いを見に来るだけでなく、参加するなど聞いたことが無いという……どれだけ規格外なんだよ、あの人。
「それでは結界を外しますので、しばしお待ちを」
一気に戻せば、時間も急速に流れ体に大きな影響を与えてしまう。徐々に戻すにしても少なからず影響が出てしまうが、そこは我慢してもらおう。
結界を解除後、剣と首飾りを回収しエリザさんの様子を伺う。荒い呼吸がだんだんと落ち着いて顔色も若干良くなってきている。
「あとは目が覚めて体調がどうなっているかは、正直わかりません。俺が言うのも変ですが信じて待つしかありませんね」
一旦リビングに戻り、報酬の話をしなければならない。




