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異世界旅行者の冒険記  作者: 神祈
始まりの森
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第11話 遭遇

 

 ミリアと合流し、案内に従い森を歩くと水の流れる音が聞こえてきた。


「ここの水はとても綺麗で、私達も使っているの。道は安全っていうわけじゃないけど魔物も少ないし子供達でも来れる距離なの」


 確かに流れる水は綺麗で、飲み水としても使えるようだ。また少し下流は深くなっており魚も沢山捕れるらしい。子供達は遊びがてら釣りをして夕食の材料を採ってくる事もあるそうだ。


 開けたところでパオタの実を頂く。水分が多く中心付近に蜜が溜まっており甘味が強いがその甘さも水分が絶妙な加減で緩和してくれて本当に美味しい。


「そうだ。ミリアは剣を見て見たいんじゃないかと思って持ってきたんだ」


 そう言うと、腰の2刀を鞘から抜きミリアの前へ置く。赤い刀身と青い刀身が煌く。


「うわ~凄く綺麗。鞘が素敵だったから剣もと思っていたけど想像以上ね。こういうのって名前が付いているんでしょう?聞いてもいい?」


 目を輝かせながら、二刀をそれぞれ振り回し危ないことこの上ない。もしこれで斬られるような・・・って考えても仕方が無い。


「2つで雹炎(ひょうえん)の剣ってぐらいで名前は無いな」


 肩で息をするほど振り回し2つの剣を置く。


「勿体無い!こんなに素敵な剣なのに……じゃぁさ私が付けてもいい?」

 これは、メルヘンチックな名前を付けられて抜くたびに言わされるパターンか?それだけは止めて欲しい。


 それに、次の世界には持って行けない物だ。このまま残るか、一緒に消えるのか詳しく知らないがそういうルールがあるのだ。


「有難い申し出だけど、2つで1つの剣みたいな物だから雹炎の剣って事で我慢してくれないか?」


 我ながら苦しい言い訳だと思う。名前を付けることに拘りがあるのか残念そうだ。


「青いほうが雹、赤いほうが炎よね?」

「そうだね。逆だったらややこしい」


 いちいち剣を抜くたびに火か水かを考えていたんじゃ戦えない。


「ならさ『静かに!何かいる』

 言葉を遮って青い刀身”雹”を構える。


「人じゃない。歩くスピードが遅い。魔物?ミリア、この森に魔物でおそらく4足歩行だ。何か知ってるか?」


 後ろは川だが万が一川からの襲撃に備えて赤い剣はミリアに握らせる。これならいざというときに魔法が発動する。


「いるとすれば、タスクボアかな?」


 猪か。

「危険なのか?それ」

「たまにロズさんが捕って来てくれるから危険はそんなに無い……と思う」

「食えるの?」

「食べられるよ。おすそ分けで貰ったけど美味しかったよ」


 食えるのか、なら食うだろ!久しく口にしていない肉!!


 目の前の森から体長は2メートル程……ってかなりデカイ。4足歩行は間違ってなかったが大型の猪が出てきた。上下の顎に2本づつ立派な牙が生えている。


「マ……マコトやっぱりタスクボアだよ。どうしよう」


 かなり驚いているのが声色からわかる。震えてもいるようだ。


「想像よりもデカイが大丈夫だ。任せなさい」


 先ほどのお返しとばかりに戯けてみせる。青い刀身を水平に振る。ヒュンと甲高い音が響き水の礫が発射される。猪の顔や足に命中しその幾つかが額に穴を開けズズーンと猪が横に倒れる。


 ピクピクと痙攣しまもなく絶命するだろう。美味しく食べるからな……


「すごい!すごいよマコト!あんな大きいの一瞬で倒しちゃうなんて!」


 ミリアは持っていた剣を放り投げ、ぴょんぴょん跳ねながら猪に近づく。

「おい!まだ死んでないんだ!近づくな!」


 ブモーーーーーーーー!!!


 最後の咆哮を上げタスクボアが口を開ける。死にぞこないとはいえあの牙に噛まれれば命を落とす。距離が近すぎて水の礫も使えない。


「キャーーーーーーー」

 ミリアは悲鳴と共にしゃがみこむ。


 ------「壱式 龍尾(いちしき りゅうび)」------


 左足で一気に踏み込み右足を軸に左足の踵でボアの頭部を蹴り飛ばす。所謂回し蹴りだが、式を使う場合威力は桁違いだ。ミリアの微かに上を巨体ごと吹き飛び木々をなぎ倒しそのまま絶命する。


「もう大丈夫だ。怪我は無い?」

 怒ってやりたいが、怖い思いもしたのだから良いだろう。手を差し出しなるべく優しく問いかける。

「うん……ごめんなさい……ダメかと思ったけど……」

 大声で泣きながら胸に顔を押し付けてくる。頭を撫でながら泣き止むのを待つその間もごめんなさい。を繰り返している。


「もう平気か?」

「うん……ごめんね。なんだかいっぱい迷惑かけちゃって」


 泣き止んだ後は両足の膝を抱え顔は俯いたまま。隣に腰掛けているが表情が全く見えない。


「それは聞き飽きた。助けたんだ、やっぱり笑顔でありがとうって言われるほうが何倍も嬉しいってもんだ」


 頭を撫でて立ち上がり、猪を調べてみる。すでに事切れておりどうやって運ぶか思案する。持ち上げるのも一苦労するし、誰かを呼びに行かせるのもどちらかが残らないといけない。やはり担ぐしかないか……


 そう決め空を見上げると夕刻と夜の狭間だ。そろそろ戻らないと族長や母親も心配するだろう。


「ミリア?そろそろ戻ろう。これは担いでいくから、悪いが剣を持ってて……『ありがとう。』


 振り向きながら言い終わる前にミリアが寄ってきて耳元でお礼と、頬に柔らかい感触が伝わってくる。

「え……あ……ちょ……」

 顔が熱い。ミリアも顔を真っ赤にしている。


「私は剣を持つから、悪いけどボアはお願いね」


 それだけ言うとそそくさと、来た道を戻っていく。

「ちょっとまっ……てこれを引きずって歩くのは……ねえ!……聞こえてますか!」


 本当に行ってしまうとは……

 仕方なくボアの首元を頭で支え、担ぎ出す。遠目から見ると巨大な猪が2足歩行しているように見える。


「これは……きつい……道はあってるんだろうか……」


 前方は余り見えず方向も良くわからない。木々の間から森の終わりが見え出すともう一息と足を動かす。


「なんとか森を出られた……」

 一度ボアを降ろし空を見上げると星々が煌き、すっかり夜となってしまった。

「ミリアは無事帰れたかな?」


 その答えはすぐ横から聞こえてきた。

「ミリアならもう戻ってきたよ。様子がおかしかったがマコトがボアを担いで来るから手伝って欲しいと頼まれてね。見張りもあるし、ここくらいまでならと引き受けたわけだ。しかし、本当に大きいな」


 昨日入り口で会ったロズさんだ。助っ人は呼んでくれていたのか。ここまでの大物は久しく見ていないそうだ。

「帰っているなら安心です。助かりました。正直結構しんどくて」


 ロズさんと共にボアを村まで運び入れると、あとの処理はやってくれるそうで、礼を言い部屋へ戻る。

 寝台はすでに用意してあり、横になると昨日とは違う香りがする。


「今日もいい香りだ、よく眠れそうだな」


 眠りを必要としない体だが、やはり体力を消費すると横になりたくなる。必然的に目を瞑るとすぐに眠りに落ちた。


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