第九十九話 ニュー・フロンティアでの暴動 その6
仮想現実反対派の中から仮想現実賛成派が生まれたのは、次のような経緯だった。
惑星フロンティア・ナンバー・ワンの地表に降り立った最初の開拓団は、彼らの理想に基づき仮想現実をもちろん禁止した。
ただし、星系法によりは禁止しなかった。
各星系政府は独自の法律を定める権利があるが、国際連合により、それが国連憲章に違反していないかの審査は受ける。
地球に介入されるのを嫌った初期開拓団メンバーは、仮想現実禁止を「生活習慣・文化」としてあつかったのだ。
生活習慣・文化については、国際連合は、「独自性を尊重する」ことになっているので基本的に介入しないからである。
初期開拓団が建設した町は、地球でインターネットが普及した西暦の二十一世紀初期のような町になった。
初期開拓団にとっての仮想現実が無い理想郷であった。
初期開拓団のメンバーには、子供が生まれ、次世代が成長していった。
皮肉なことに、その次世代から「仮想現実賛成派」が生まれたのだった。
次世代の子供たちは、親たち大人から「仮想現実は人間の成長を妨げる悪いことだ」と教えられて成長する。
しかし、子供は大人たちから「悪いことだ」と言われれば却って興味を持つし、少し成長すれば、大人たちが言う「仮想現実が悪いことは本当になのだろうか?」疑問を持つようになる。
有線によるインターネットはあるので、子供たちは仮想現実について調べることはできる。
それに地球で制作された娯楽作品、小説・マンガ・アニメ・ドラマ・映画では、ストーリーの中に当たり前に仮想現実が出てくるのだ。
初期開拓団のメンバーはできれば、インターネットの使用そのものを禁じ、仮想現実の存在そのものを次世代には教えないようにしたかった。
しかし、それは不可能であった。
インターネットを禁止すると「知る権利・学習する権利」を奪うと見なされるので、国際連合が介入して来ることになるからだ。
初期開拓団のメンバーは、「仮想現実依存症」について大きく次世代に伝えることで、次世代が「仮想現実は悪いこと」という意識を持つようしようとした。
しかし、大人から「悪いこと」とされれば、却って未成年者が興味を持つのは、西暦の二十世紀の喫煙・飲酒と同じである。(ちなみに跳躍暦百五十年現在、喫煙の習慣は完全に絶滅している)
ニュー・フロンティア星系では、仮想現実装置の製造も輸入もしていない。
星系法で、仮想現実装置の製造・輸入を禁止できないので、初期開拓団のメンバーは自主的に禁止していただけだった。
次世代のメンバーの中には成長して、技術者になると、仮想現実装置の自力での製造・密輸を試みる者があらわれるようになった。
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