第八十八話 ノリオの個室 その1
「大切な名前だからこそ受け取って欲しいんだ。アンドロイド、いや、『ノリコ』」
「はい、では、ありがたく、お名前を使わせていただきます。小川艦長」
「プライベートの時は、『ノブヨ姉さん』と呼んでくれないか?」
「はい、ノブヨ姉さん」
「それじゃあ、ノリオ、私は艦長室に戻る。何かあったら連絡してくれ」
小川艦長はノリオの個室から出ていった。
部屋にはノリオとノリコだけになった。
「あらためて、ご挨拶します。ノリオ様の専属護衛となりました。ノリコです。よろしくお願いいたします」
ノリコは立ったまま丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。ノリコさん」
ノリオもお辞儀を返した。
「私に対しては『ノリコ』と呼び捨てにして構いませんよ」
「小川艦長の妹さんの名前を呼び捨てにはできませんよ」
「分かりました。私はノリオ様の専属護衛であり専属メイドでもあります。メイドとして何でもお命じください」
「ノリコさん、立ったままなのは何だから座ろうか?」
「はい、ですが、この部屋には椅子は一つしかありませんが?」
ノリオがいる個室は、一般隊員用なので狭く、椅子は机に備え付けられた物しかない。
他に部屋にあるのは小さなクローゼットとベッドだけだ。
「じゃあ、ベッドに並んで座ろうか」
「かしこまりました。ノリオ様」
ノリオはベッドに座った。
ノリオの隣にノリコは座った。
ノリコはノリオの左腕に両腕を恋人がするように絡めた。
そして胸をノリオに押しつけた。
(あっ!ノリコさんの胸は温かいし!柔らかい!ノリコさんはアンドロイドだから身体は冷たくて硬いのだと思っていたけど、まるで本物の人間のような人肌の感触が……いや!そうじゃなくて!)
「ノリコさん!何で僕に胸を押しつけて来るんですか!?」
「えっ!?ベッドに並んで座ろうと、ノリオ様が言われたので、こういうことを求められたのかと推測したのですが?ご不快でしたか?」
「いや、不快ではないけど……」
「じゃあ、このままでいさせていただきますね。一つ質問よろしいでしょうか?」
「質問って、なに?」
「ノリオ様はノブヨ姉さんのことを、どう思っているのでしょうか?」
「小川艦長のこと?もちろん、信頼できる。素晴らしい上官だと思っているよ」
「いえ、上官としてでなく、プライベートな立場で男性として見て、女性としてノブヨ姉さんは魅力的ですか?」
「あの……僕が言ったことを小川艦長に伝えたりしないよね?」
「もちろんです!私はノリオ様の専属ですから!」
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