第八十七話 アンドロイドの名前
宇宙護衛艦「しなの」の自分の個室にノリオが一人でいた。
今はノリオは勤務時間外で自室で何をしてもいいのだが、ノリオは何もやる気が起きず、かといって眠る気にもなれずにベッドに横になっていた。
ドアのチャイムが鳴った。
ベッドから飛び起きてノリオはインターホンに出た。
「ノリオ、小川だ」
「はい、ドアを開けます」
ドアが開き、制服を着ている小川艦長とメイド服を着ているアンドロイドが入ってきた。
「小川艦長、どうなったのですか?」
「ノリオ、結論から言う。交渉はうまく行った」
「小川艦長、それでは、こちらのアンドロイドさんは……」
「うむ、アンドロイドの所有者の遺族から正式に買い取り、航宙自衛隊の備品というあつかいになった。この『しなの』に配備され、ノリオの専属護衛用アンドロイドということになった。ノリオの同意がなければアンドロイドを護衛からはずすことは誰にもできない」
「誰もできないんですか?」
「そうだ。私はできないし、航宙艦隊司令官も、航宙幕僚長も、統合幕僚長も、防衛大臣も、内閣総理大臣もできない」
「そこまでおおごとなんですか……でも、アメリカの大統領から『アンドロイドを返せ』と言われたら……」
「それも拒否できる」
「それはすごいですね。ある意味無敵ですね」
「だが、一つだけアンドロイドをノリオの専属護衛からはずせる組織がある」
「どこの組織ですか?」
「国際連合安全保障理事会だ。そこで『アンドロイドがノリオの側にいることが地球人類全体に危険だ』と決議されれば、アンドロイドはノリオの専属護衛からはずされる」
「そんな決議がされる可能性があるんですか?」
「ほとんどありえない。議題として提案されたとしても、日本が拒否権を発動するから決議されることはない」
「じゃあ、アンドロイドさんが僕の専属護衛なのは確定ですね」
「そうだ。ところで、ノリオ、いつまでも『アンドロイド』と呼んでいるのは何だから名前をつけないか?」
「名前ですか?」
「そうだ。できれば、私に名前をつけさせて欲しい」
「どんな名前ですか?」
「ノリコだ」
「何か由来がある名前なのですか?」
「私の妹だ」
部屋に入って初めてアンドロイドが口を開いた。
「データによりますと、小川艦長は一人っ子で、姉も妹もいらっしゃいませんが?」
「私は母親のお腹の中にいた時は双子だったんだ。残念ながら私の妹は生まれることができなかった。ノリコは両親が私の妹につける予定だった名前だ」
「そのような大切な名前をアンドロイドである私がいただいてもよろしいのですか?」
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