第八十六話 小川艦長対アンドロイド その5
「小川艦長、私に常識があるかどうかなら、もう分かっているではないか?」
「アンドロイド、何が分かっているのだ?」
「人類に対して反乱を起こしているのだ。その点で常識などないだろ」
「法律や規則に違反する人間なんて珍しくもない」
「小川艦長、私はアンドロイドだ。法律や規則には違反しないように造られている。なのに、人類に対して反乱したのだ珍しいだろう?」
「確かに珍しい。だが、人間にはよくあることだ。人間は法律や規則に違反する時にはたいてい自己を正当化する『言い訳』をする。言い換えれば、人間はほとんどの者は『悪人』にはなりたくないのだ。今のことで言えば、アンドロイド、お前はノリオに攻撃しなかった。つまり、お前は本当の意味での『悪人』にはなりたくないと思っているということになる。ある意味、普通の人間程度の常識はお前にはあるということになる」
「小川艦長、私に普通の人間程度の常識があるとして何の意味があるのだ?」
「すぐに分かる。アンドロイド」
小川艦長が突然ノリオから離れて走り始めた。
壁に向かって走っている。
壁を背にして仁王立ちになった。
「さあ!来い!アンドロイド!」
「言われるまでもない!行くぞ!」
アンドロイドは左手で切断した右腕を棒のように高く掲げて、小川艦長に突進した。
アンドロイドは右腕を小川艦長の頭に向けて振り下ろした。
振り下ろされた右腕を小川艦長は両手で挟んで止めた。
いわゆる「真剣白刃取り」をした。
小川艦長は両手で挟んだアンドロイドの右腕を遠くに放り投げた。
そこからの勝負は一方的だった。
勝負が終わった後、床に倒れているのはアンドロイドで、床に二本の足で立っているのは小川艦長だった。
「アンドロイド、大丈夫か?損傷は修理可能か?」
「損傷は修理可能だが、その質問に意味はあるのか?小川艦長」
「どういうことだ?」
「人類に対して反乱を起こしたアンドロイドなど解体処分だろう?」
「そんなことは私がしないし、させない」
「では、どこかの研究施設に閉じ込められて私は研究材料になるのか?」
「そんなこともしない」
「じゃあ、私をどうするつもりだ」
「お前は私がもらう」
「私をもらって、どうするつもりだ?」
「お前をノリオの護衛にする」
「そ、そんなことできるわけがない!」
「ちょうど良かった。私は艦長としての仕事もあるからな。ノリオの専属の護衛が必要だったんだ」
「だから、そんなことはできないだろ!」
「できる。やってみせる」
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