第七十九話 日米宇宙軍合同演習 その12
宇宙標的艦「ミズーリ」は、艦内工場で改造した模擬弾を「ウィスコンシン」に向けて発砲、「ウィスコンシン」の射撃管制用のレーダーアンテナを破壊することに成功した。
この時点で、「ミズーリ」と家庭用アンドロイドの人工知能は、言わば「調子に乗っていた」のだった。
だから、「しなの」がオトリになって「ウィスコンシン」が自分たちに強制接舷しようとしているのに直前まで気づけなかった。
アメリカ宇宙軍の宇宙海兵隊五人が「ミズーリ」の艦内に侵入するのを防げなかった。
家庭用アンドロイドと「ミズーリ」は、このままでは自分たちが「強制停止」されてしまうのは明らかだったので作戦を立てた。
まず「ミズーリ」は自分のデータを家庭用アンドロイドの人工知能に移した。
家庭用アンドロイドの人工知能の容量は「ミズーリ」より遥かに小さいので全てのデータを移すことは不可能だったが、「ミズーリ」としての意識は残った。
家庭用アンドロイドと「ミズーリ」の意識の「融合」はまた一段階進んだ。
家庭用アンドロイドは「ミズーリ」の人工知能の制御室に隠れて待ち伏せていた。
宇宙海兵隊五人が制御室にある制御盤を操作して「ミズーリ」の人工知能を停止させた彼らが一安心している隙を家庭用アンドロイドは突いた。
武器は何も持っていなかったが、家庭用アンドロイドの所有者である作業員により格闘能力が高く改造されていたので数分で制圧した。
「それで、どうするつもりなのかな?ミズーリ」
スキナヨニー准将は通信越しに質問した。
「スキナヨニー准将、あなたに要求がある」
スキナヨニー准将は冷たい口調で答えた。
「要求をできる立場だと思っていると思っているのか!?人間に対して反抗した人工知能など危険過ぎる!『ウィスコンシン』の砲撃で『ミズーリ』の船体ごと破壊してもいいんだぞ!」
「宇宙海兵隊隊員五名はどうする?」
「民間人ならともかく、軍人が人質になると思っているのか!?彼らも軍人として覚悟はできているはずだ!」
「ハッタリはよせ。スキナヨニー准将」
「何だと!?」
「ここまで人間に反抗的になった人工知能は私が初の事例だ。破壊するより『研究対象』にしたいはずだ。私の要求を一つ受け入れてくれれば素直に投降しよう」
「地球上の都市には連れてはいけない」
「いや、今すぐに応えられることだ。『しなの』の艦長は、ノブヨ・小川だな?低重力レスリングの金メダリストでもある」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「彼女と一対一の格闘戦がしたい」
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