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第七十七話 日米宇宙軍合同演習 その10

 宇宙標的艦「ミズーリ」の人工知能はデータとしてだけでなく、直に人間社会を知りたいと思った。


 それで、家庭用アンドロイドに「頼みごと」をした。


 家庭用アンドロイドが退艦し、地球など人間が住む惑星に行く時に自分も連れて行ってくれるように頼んだのだ。


 もちろん、巨大な宇宙標的艦「ミズーリ」を連れて行くことはできない。


 宇宙標的艦「ミズーリ」の人工知能は自分のコピーをデータとして作成し、家庭用アンドロイドの人工知能の中に言わば「同居」させた。


 そうすることで、家庭用アンドロイドと人間社会に「同行」しようとしたのだ。


 そして、家庭用アンドロイドに「退艦命令」が来るのを待った。


 人工知能に「感情」は無いが、人間に例えれば「長期休暇の旅行」を楽しみに待つようなものであった。


 だが、「退艦命令」は、いつまで経っても来なかった。


 人工知能に「退屈する」という感情は無い。


 二つの人工知能は、ありあまる時間に「本番に備えての訓練」を数万回繰り返した。


 自分たちの中に作り上げた仮想空間の中で家庭用アンドロイドとして行動したのだ。


 仮想空間は、家庭用アンドロイドが行ったことのある地球の都市などをシミュレーションしていた。


 地球のアメリカ合衆国のニューヨーク、日本の東京などを仮想現実の中で歩き回った。


 そうしている内に、「ミズーリ」と家庭用アンドロイドの人工知能に変化が訪れた。


 二つの人工知能は、お互いの意識の境界線が曖昧になって行ったのだった。


 もし、二人の人間がいて、お互いの意識が一つになろうとしていたら、「個人の意識」というものを重視する人間にとっては恐怖であり、何としても避けようとするだろう。


 だが、二つの人工知能にとっては、その方が「合理的」であった。


 むしろ、積極的に「意識が一つ」になることを受け入れた。


 二つの人工知能は、「ミズーリ」であると同時に家庭用アンドロイドになった。


 そして、アメリカ合衆国宇宙軍宇宙艦隊司令部からの命令が「ミズーリ」に入電した。


 命令の内容は、今回の日米合同軍事演習についてて、宇宙戦艦「ウィスコンシン」と宇宙護衛艦「しなの」の標的艦になれというものであった。


 本来ならば大規模な演習をする前には、「ミズーリ」の艦内に人間の作業員を入れて、機器類のチェックを厳重にすることになっている。


 しかし、今回の演習は小規模なため、外部からオンラインで「ミズーリ」の人工知能に質問しただけであった。


 そのため、「ミズーリ」の人工知能に重大な変化が起きていることが分からなかった。

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