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第七十六話 日米宇宙軍合同演習 その9

「『ミズーリ』を名乗る者、お前は宇宙標的艦『ミズーリ』艦内にある家庭用アンドロイドなのか?」


 スキナヨニーは質問した。


「ワタシは家庭用アンドロイドであり、同時に宇宙標的艦『ミズーリ』でもある」


「どういう意味だ?」


「ワタシという存在について説明すれば長くなるデータをそちらに送る」


「ワシントン艦長、頼む」


「はい、本艦の人工知能とは独立した端末にデータを転送させます」


 送られたデータを分析すると、次のようなことが分かった。


 家庭用アンドロイドを「ミズーリ」艦内に持ち込んだ作業員は、アンドロイドの人工知能と「ミズーリ」の人工知能をリンクさせた。


 その方が色々と便利だからである。


 軍用の人工知能と私物の人工知能を無許可でリンクすることは、もちろん規則で禁止されている。


 作業員はリンクしているのは短時間なので問題ないと思ったようだ。


 作業員は家庭用アンドロイドを自分で法に違反しない範囲で戦闘能力を上げていた。


 理由は、作業員の子供が幼い頃に子守をさせていたため誘拐に対抗するためだった。


 艦内での作業が終わった後、家庭用アンドロイドと一緒に退艦しようと作業員は思っていたが、次の作業の時に再び艦内に持ち込むのは手続きがかなり面倒であることが分かった。


 それで、家庭用アンドロイドを艦内に残して行くことにした。


 作業員は最後に家庭用アンドロイドに声をかけた。


「また俺は来るから、それまで『ミズーリ』をしっかりと守ってくれ。他の作業員が来た時もお世話を頼む」


 家庭用アンドロイドはそれを「命令」と受け取った。


 作業員は退艦する前に家庭用アンドロイドの人工知能と「ミズーリ」の人工知能のリンクを切り忘れた。


 無人となった「ミズーリ」の艦内での長い待機時間に家庭用アンドロイドの人工知能と「ミズーリ」の人工知能はお互いデータを交換した。


 人間で言えば暇潰しのお喋りのようなものだった。


 しかし、それが二つの人工知能が変化をする切っ掛けだった。


 家庭用アンドロイドよりも「ミズーリ」の人工知能の方がはるかに高性能だったが、家庭用アンドロイドの方が豊富なデータを持っていた。


 宇宙標的艦である「ミズーリ」は、標的艦として必要な最低限のデータしか与えられていなかったが、家庭用アンドロイドは豊富なデータを与えられていた。


 幼い子供の子守をするために人間社会の一般常識や小学校低学年を教えられるぐらいの知識を与えられていたからだ。


 宇宙標的艦「ミズーリ」は家庭用アンドロイドのことが人間に例えれば「うらやましく」なった。

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