第七十二話 日米宇宙軍合同演習 その5
「通信長。『ウィスコンシン』に『了解した。静観する』と発光信号で返信しろ」
小川艦長は命令した後、言葉を続けた。
「『ウィスコンシン』には『静観する』と返信したが、場合によっては我々も『ミズーリ』と戦うことになるかもしれん。副長!総員戦闘配置だ!」
「了解!総員戦闘配置!総員戦闘配置!これは演習ではない!繰り返す!これは演習ではない!」
細川副長が艦内放送をするのを聞きながらノリオは戸惑っていた。
ノリオは総員戦闘配置の場合はどこにいるべきかを教えられていなかったのだ。
(どこに僕は行けばいいんだ?小川艦長に聞くのも忙しそうだし……)
ノリオの視線に気づいたのだろう。
小川艦長がノリオに顔を向けた。
「どうした?大原二等宙士」
「あの……総員戦闘配置の場合は僕はどこに行けばいいのでしょうか?」
「ああ、言っていなかったな。ここにいろ」
「戦闘指揮所が僕の配置なのですか?」
「正確に言うと、戦闘配置中は私の側に常にいろ。君を『ラッキーパーソン』として私が護衛しているんだ。極端な話、この『しなの』が撃沈されそうになったら君を最優先で退艦させることになる。そんな心配そうな顔をするな。艦長として『しなの』を簡単に沈めるようなことはしない」
「『ウィスコンシン』が『ミズーリ』に向けて砲撃を開始しました!」
観測長が報告した。
小川艦長たちはモニターに注目した。
「『ミズーリ』は砲撃を回避していて損害は無し、『ウィスコンシン』も今のところ損害は無し、『ミズーリ』には実弾は積んでいないのだから当たり前だが……」
「『ミズーリ』が砲撃を開始しました!」
観測長の報告に小川艦長は驚いた。
「馬鹿な!『ミズーリ』に実弾は無いはずだ!」
「観測から得られたデータを分析すると、発砲されたのは演習用の模擬弾です」
「この状況で模擬弾を撃って何の意味がある?やはり、人工知能にエラーが発生しているのか?」
「模擬弾が『ウィスコンシン』に着弾しました!」
観測長からの報告に続いて通信長が報告した。
「発光信号で『ウィスコンシン』から通信!『ワレ砲撃不能』」
観測長が報告した。
「模擬弾で『ウィスコンシン』の射撃管制用レーダーのアンテナが破壊されたようです。それで砲撃不能になったのでしょう」
「何故だ!?何故、演習用の模擬弾でそうなる!」
細川副長が進言した。
「推測ですが、『ミズーリ』の艦内の工場で模擬弾を改造したのでは?装甲を貫くのは無理でもアンテナを破壊する程度には改造可能です」
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