第七十話 日米宇宙軍合同演習 その3
実弾射撃演習が開始された。
宇宙護衛艦「しなの」は艦首を宇宙標的艦「ミズーリ」に向けた。
この時代の宇宙戦闘艦の主砲は艦首に集中している。
宇宙戦闘艦は細長い筒のような形をしていて、艦の前から、主砲区・副砲区・居住区・機関区となっている。
副砲は水上戦闘艦のように近接防御用に回転式砲塔になっているが、主砲は艦首に固定されている。
主砲を撃つ時は艦ごと標的に向きを変える。
艦首の向けた方向にしか撃てないので一見すると不便に思えるが、宇宙空間で復活した大鑑巨砲主義は、長大な砲身を装備することを優先したので、こういう構造になっているのだ。
この時代の宇宙戦闘艦は「宇宙を飛ぶライフル銃」と呼ばれている。
一対一の艦隊戦では互いに艦首を相手に向き合い射撃することになる。
アメリカの西部劇の銃による決闘に例えられている。
宇宙護衛艦「しなの」の艦首に九門ある主砲の内一門から砲弾が放たれた。
目標はもちろん宇宙標的艦「ミズーリ」だ。
放たれた砲弾は実弾である。
砲弾は外れた。
「やはり、初弾命中とはいかないな。砲術長」
小川艦長は苦笑しながら言った。
「申し訳ありません。艦長」
「砲術長。叱責しているわけではない。気にするな。それで、観測長。『ミズーリ』の様子はどうだ?」
「こちらに艦首を向けたまま後退しています。訓練用の模擬弾を発砲する様子もありません。回避に専念しているようです」
「相手が一定の進路を行くのならともかく、回避に専念されたら初弾命中とはいかないのは当然だ。『ミズーリ』はこちらと距離を開けようとしているようだ。距離を詰めるぞ。航宙長。全速前進」
「了解」
それから約三十分、距離を詰めようとする「しなの」と距離を開けようとする「ミズーリ」の追いかけっこは続いた。
小川艦長の手元にある小型モニターに副長のツグオ・細川二等宙佐の顔が映った。
副長は予備戦闘指揮所にいる。
艦長と副長が同時に戦死・負傷するのを避けるためである。
「艦長。アメリカ側に抗議しましょう。『ミズーリ』が回避するだけでは訓練になりません」
「だが、ある意味では実戦に近いぞ。実戦では一対一の戦闘の場合は、一方は回避に専念して味方の援軍が来るのを待つのはありえる」
「ですが、この訓練は一対一の戦いを想定しています。ある程度は訓練の想定に合わせてもらわなければ困ります」
「実戦は台本のある芝居ではないだろう」
「しかし……」
二人の会話を観測長の報告がさえぎった。
「『ミズーリ』が当艦に向けて加速しています」
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