第七話 仮想現実訓練室 その4
「サクラコさんに仮想現実で艦長が変装していたんですか!?何で、そんなことを!?」
驚いているノリオに対して、ノブヨ・小川艦長は獲物を見つけた肉食獣のような笑みのまま答えた。
「実在している人間を仮想現実で再現するには膨大なデータが必要だが、『しなの』のコンピューターにはサクラコに関するデータは無くてな。サクラコのことを知っている私が演じてみた。初対面の美少女に交際を申し込まれて、すぐOKしてしまうなんて、ノリオ二等宙士。キミは女性との交際経験がゼロか?」
「その通りです。僕は年齢イコール彼女いない歴です。でも、冷静になって、今考えると、いくらなんでも、リアリティが無かったですよ。艦長が演じていた『サクラコさん』が初対面で結婚を前提とした交際を僕に申し込むなんて」
「いや、本物のサクラコがキミに会ったとしたら、結婚を前提とした交際をすることを申し込むだろう。そして、大江戸星系に永住してくれることを望むだろう」
「えっ!?でも、大江戸星系に住むとしたら、航宙自衛隊辞めなければならないですよね?一カ月で自衛隊辞めたんじゃ、何の縁もない大江戸星系で僕が再就職するのは難しいのでは?」
「いや、サクラコの父親は大江戸星系の宇宙警備隊である軌道警備奉行所のトップの『お奉行様』だ。キミを軌道警備奉行所に再就職させてくれるだろう。しかも、いきなり『幹部待遇』でだ」
「な、何で!?ただの航宙自衛隊の新入隊員の僕が、そんな好待遇をされるんですか!?」
「キミは一回で目的地に『跳躍』できるリングを選ぶことができた。それによって、キミは航宙自衛隊の基礎教育では知ることのできない『跳躍』についての『秘密』を知る資格を得たのだ」
「跳躍の秘密って、何ですか?」
小川艦長は白い壁と床だけになっている仮想現実訓練室を見回した。
「話は長くなる。こんな殺風景な所でやるのは何だな。状況設定四十七番仮想現実で再現!」
仮想現実訓練室は、たちまち大きな黒板・教壇・たくさんの机が並ぶ典型的な日本の学校の教室になった。
西暦の二十一世紀初頭の教室と跳躍暦百五十年の教室は、見た目はほとんど変わっていない。
教室に設置されている教育用情報機器の機能は西暦とは比べ物にならないほど発達しているが、「デジタル」と「アナログ」の両方の利点を生かすため、「黒板にチョークで書く」ということは跳躍暦百五十年現在でも行われている。
小川艦長の服装も変わっていた。
上半身は豊かな胸が強調されるデザインの白いブラウスで、下半身は短めの黒いタイトスカートであった。
タイトスカートからは二十歳代としか思えない二本の脚が伸びていた。
ノリオの視線は、ノブヨの脚に釘付けになった。
「やれやれ、キミは胸だけではなく脚も好きなんだな?今は好きなだけ見てもいいぞ。キミには少しは女に慣れて欲しいからな。さて、授業を始めるぞ。リングについての基礎をおさらいするぞ」
「あの……、小川艦長」
「今は『学校の授業』という設定だ。私のことは先生と呼べ」
「では、小川先生、僕の隣の席に『サクラコさん』を仮想現実で再現してくれませんか?」
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