第六十三話 宇宙戦艦「ウィスコンシン」 その4
「小川艦長。ハニートラップとは、具体的にはどんなものだったんですか?あっ!プライバシーに関わるような質問でしたね!失礼しました!質問を取り消します!」
「いや、ノリオ。かまわない。むしろ知ってもらいたい。みんなも聞いてくれ」
ノブヨは話を始めた。
「時間が無いから簡単にいうが、彼は裸になって私のベッドに潜り込んで来たんだ」
「えっ!」
ノリオは驚き、他の乗組員たちも驚いた。
「アメリカ宇宙軍は、私がああいう感じの金髪碧眼の美少年が好みだと思って彼にそういうことをさせたんだ。私が未成年の男の子に手を出すことで私の弱味を握ろうとしたんだ。古典的なハニートラップだが一番効果がある。だが、的外れなことに私の好みの男はちがうのだがな」
「そうなんですか?」
「ああ、ああいう男を純粋に『可愛い』とは思うが、犬や猫を可愛いと思う気持ちと似たようなものだ。手を出そうとは思わない」
「アメリカ宇宙軍は、小川艦長の好みじゃない男を送ってしまったんですね。でも、何で、そんな間違いをアメリカ宇宙軍はしたんですか?」
「お役所仕事ではありがちな間違いだ」
「何ですか?それは?」
「航宙自衛隊には、私と同姓同名で同い年の女性隊員が一人いるんだ。その彼女と個人データを間違えたらしい」
「人工知能が発達した現在でも、そんな間違いがあるんですか!?」
「結局、最終的に判断するのは人間だからな」
「あれっ!?あの以前は『ジョン・スミス』。今は『スキナヨニー』と名乗っている男は、小川艦長にハニートラップを仕掛けようとして失敗したんですよね。何で、また来たんですか?」
「そこが、私も疑問に思っている。航宙自衛隊情報部の秘密調査でも、あの男の本名さえも分からなかった。分かったのは、いくつかの国の女性士官がヤツのハニートラップに引っ掛かったらしいということだけだ」
「それなら、なおさら、スキナヨニー准将が来た理由が分かりません」
ノブヨはノリオをじっと見つめた。
「私ではなく、ノリオ。お前がターゲットなのかもしれない」
「えっ!?僕にですか?僕がターゲットなら、女性を送って来るでしょう?」
「うん、確かに、航宙自衛隊入隊時のキミからの自己申告によると、キミの性的対象は『異性』となっているが、本当に『同性』に対して性的な興味はないのだね?」
「ありません」
「本当にだね?今は、西暦時代とは違い。同性愛は法律違反ではないし、社会的な偏見も少ない。日本でも法的に同性婚が認められている。正直に言ってくれ」
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