第六十二話 宇宙戦艦「ウィスコンシン」 その3
「ノブヨ。久し振りだね」
金髪碧眼の少年はノブヨに親しげに話しかけた。
「日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦『しなの』艦長、ノブヨ・小川一等宙佐です。アメリカ合衆国宇宙軍准将閣下、お名前を教えていただけますでしょうか?」
ノブヨの態度は事務的であった。
少年は苦笑した。
「ノブヨ。知っているだろう?」
「はい、ですが、以前にお会いした時は、准将閣下は軍人ではなく学生でしたし、今のお名前は私は知りません」
「あの時、僕は何て名前だったけ?」
「ジョン・スミスというお名前でした」
「じゃあ、今回は何て名前にしようかな?うーん、ええと……ノブヨはどんな名前がいいと思う?」
「准将閣下のお好きなように、私には特に意見はありません」
「『お好きなように』ね。そっけないなあ。それじゃあ、『スキナヨニー』にしよう。ワシントン艦長、今回の俺の名前はこれにするよ。登録しといて」
「了解しました」
「じゃあ、ノブヨ。一時間後に打ち合わせをするから『ウィスコンシン』に来てね」
「スキナヨニー准将閣下。了解しました」
モニターから映像が消えた。
ノブヨは艦橋を見回した。
乗組員たちは興味津々の顔でノブヨに視線を向けていた。
「みんなは、あのスキナヨニー准将が何者かを私に聞きたいのだろう?ノリオもそうだろう?」
「は、はい、そうです。質問してよろしければですが」
「別に隠すようなことは何もない。あのスキナヨニー准将は何者かは……」
ノブヨは一呼吸置いた。
「私は知らない」
「冗談はやめてくださいよ!小川艦長!」
「ノリオ。本当に知らないんだ。彼に私が初めて会ったのは、三年前、私が宇宙護衛艦『ひかり』の艦長だった時のことだ。その時、彼は『ジョン・スミス』と名乗っていて……」
ノブヨの話を要約すると、こういうことだった。
ジョン・スミスは月にあるアメリカ合衆国の月面都市アームストロング・シティにあるアームストロング記念大学の学生で、十五歳で飛び級で入学したという経歴だった。
彼は「ラッキーパーソン」であり、日米合同宇宙演習のためにアメリカから宇宙護衛艦「ひかり」に派遣された。
「後から分かったことだが、彼は私に対する『ハニー・トラップ』だったらしい」
「ハニー・トラップですか?」
「そうだ。彼は金髪碧眼の白人の美少年だろ?どこの国の宇宙軍にも女性の幹部はいる。彼が好みの女性幹部のところに彼を送り込んで罠に嵌めるための要員らしい」
「日本とアメリカは同盟国ですよね?」
「ノリオ。前にも言ったと思うが、同盟国だから諜報活動が必要ないということはない」
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