第六十一話 宇宙戦艦「ウィスコンシン」 その2
日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦「しなの」は、ノリオが選択した「リング」を通過した。
一瞬の後、「しなの」はニュー・フロンティア星系にあった。
アメリカ合衆国宇宙軍宇宙戦艦「ウィスコンシン」が「しなの」の前方に見えた。
「艦長。『ウィスコンシン』より通信です」
「通信長。繋げ。情報を全員で共有できるように大画面に映せ」
「了解」
艦橋の前方にある大型モニターに、アメリカ宇宙軍の制服を着た人物が映った。
階級章は大佐であることを示している
浅黒い肌のアフリカ系アメリカ人であった。
「アメリカ合衆国宇宙軍宇宙戦艦『ウィスコンシン』艦長、エリザベス・ワシントン大佐です」
ワシントン大佐はふくよかな感じのする女性であり、軍服を着ていなければ保育園の園長に見えるような人物であった。
「日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦『しなの』艦長、ノブヨ・小川一等宙佐です。ワシントン大佐。さっそくの質問を失礼しますが、『ウィスコンシン』には『ラッキーパーソン』が乗っているのですか?」
ノブヨの質問に画面の中のワシントン大佐はかすかに表情を歪めた。
「その質問には答えられない」
「まさか、『ラッキーパーソン』なしで、ここニュー・フロンティア星系に一回目で辿り着いたのですか?そうだとしたら本当にラッキーですね」
「その質問にも答えられない」
「まさか……『ラッキーパーソン』なしで『リング』を一回目で当てる方法をアメリカは見つけたのですか?そうだとしたら歴史を変えるようなことですよ?」
ワシントン大佐は首を激しく横に振った。
「いや、いや、いや、そんな方法は私たちは発見していないよ」
「アメリカもいまだに『ラッキーパーソン』でしか『リング』を一回目で当てることができないということですか?」
「その通りです」
「それなら、『ウィスコンシン』には『ラッキーパーソン』が乗っていることになりませんか?」
「その質問には答えられない」
「肝心なところの質問に答えることを禁じているのは、ワシントン大佐。あなたの上官ですか?」
ノブヨは「その質問には答えられない」と返事がくると予想した。
「その通りです」
予想に反してワシントン大佐はあっさりと答えた。
「その上官は『ウィスコンシン』に乗っていますか?」
「その通りです」
「ひょっとして、その上官は私の古い知り合いですか?」
「その通りです」
「それなら、その上官にイタズラみたいなことはやめて、私の前に堂々と出なさいと伝えてください」
「ワシントン艦長、俺と変わろう」
モニターにはワシントン艦長に変わって、金髪碧眼の中学生ぐらいに見える白人の少年が映った。
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