第六話 仮想現実訓練室 その3
(しかし、健全なデートを上手くやるには、どうすればいいんだ?)
ノリオは脳内の記憶から恋愛をテーマとした小説・漫画・アニメなどを掘り起こして、それらを参考にしようとした。
(駄目だ!僕が読んだのはハーレム物ばかりだった。ああいうのは男性主人公が女性キャラにモテまくるけど、具体的な理由が分からない。参考にならない!)
「あの、ノリオさん、ノリオさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「は、はい!もちろんです!」
悩んでいたノリオはサクラコの言葉に反射的に答えた。
「では、私のことは『サクラコさん』と呼んでください」
「は、はい!サクラコさん」
(苗字ではなく名前で呼び合うなんて、いきなり親密度が上がったな。ゲームで言えばイージーモードなのか?)
「ねぇ、ノリオさん、お尋ねしたいことがあるの、よろしいかしら?」
「は、はい!僕に答えられることであれば!」
(仮想現実と分かっていても、美少女と会話をするのは緊張するな)
「ノリオさんは『一目惚れ』って現実にありえると思いますか?」
「えっ!?そ、そりゃ、あるんじゃないかな?」
「私はありえないと思っていました」
(えっ!?答えに失敗したか!?)
「私は恋愛物の小説や漫画をよく読むんですが、女性の主人公が出会ったばかりの男の人に『一目惚れ』するのは、『お話』としては面白いですが、現実にはありえないと思っていました。だって、相手の顔と名前ぐらいしか知らないんですよ?」
「は、はい、そうですね」
ノリオは相槌を打つことしかできなかった。
「でも、今日、『一目惚れ』はあるんだと分かりました。ノリオさん、私はあなたに恋をしています。結婚を前提としたお付き合いしませんか?」
(えっ!?何だ!?この急展開!?)
「そ、その……僕って特に特徴のない平凡な顔をしているし、勉強は良くもなく悪くもなくの平均点だったし、運動も平均だし、特に熱中していることも無いし……、サクラコさんのような美少女に一目惚れされるような男じゃ……」
サクラコはノリオに近づいて来ると、ノリオの両手を握った。
(うわっ!女の子に手を握られるなんて初めてだ!お手てが柔らかい!サクラコさんて、こんなにいい香りがするんだ!)
「ノリオさん、お互いのことは、これからよく知ればいいんです。私とお付き合いしてくださいますか?」
「は、はい!喜んで、お付き合いさせていただきます」
「はい、ここでいったん中止」
サクラコがそう言うと、周囲の公園は消え失せ、白い壁と床があるだけの部屋になった。
ノリオの両手を握っているのは儚げな微笑みを浮かべたサクラコではなかった。
獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべるノブヨ・小川艦長であった。
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