第五十五話 カグヤ・シティ その10
「ノリオ!私の背後に立て!私から離れずに行動しろ!」
「は、はい!」
ノリオはノブヨの背後に立った。
ノブヨは装甲機動服と対峙した。
「ちょっと!ちょっと!ノブヨさん!何をしているんですか!?」
「ん?見て分からないか?」
「分かりますけど、何で水着を脱いでいるんですか!?」
ノブヨは水着を脱いで丸裸になっていた。
背後に立つノリオの目には裸の背中と尻が丸見えだった。
「私の予想が正しければ、これで装甲機動服は何とかなるはずだ。ノリオ。私の動きに合わせて私の背後に常にいろ!私の前には絶対回るな!」
「は、はい!了解しました!」
身長二メートルある装甲機動服が両腕を前に出してノブヨにつかみかかろうとした。
丸腰どころか丸裸のノブヨは……
装甲機動服に抱きついた!
素手の人間の力と装甲機動服の力ではもちろん装甲機動服の力の方がはるかに上だ。
ノリオはノブヨはすぐに引き剥がされてしまうと思ったが、ノブヨは装甲機動服に抱きついたままでいる。
「ノブヨさん!装甲機動服より力があるんですか!?まさか!ノブヨさんは国際条約で禁止されているサイボーグだったんですか!?」
「馬鹿!私の身体に機械は入っていない!鍛えてはいるが生身の人間だ!」
「じゃあ、どうして?」
「私の予想通り、この装甲機動服の中には人間は入っていない。人工知能の『警備モード』で動いているんだ。これだけ言えば自衛隊で教育されたノリオには分かるだろ?」
「あっ!はい!分かりました!」
航宙自衛隊の記憶促進装置で得た知識でノリオはノブヨの言いたいことが分かった。
装甲機動服は無人でも人工知能で自律して判断して動くようになっている。
今回、装甲機動服を送り込んだ人間はノリオを捕らえるために相手を極力傷つけない「警備モード」に設定している。
それだと「非武装の人間」は取り押さえるだけで攻撃しようとはしない。
ノブヨは水着を脱いで丸裸になったのは「非武装」であることを装甲機動服の人工知能に示すためだ。
水着まで脱いだのは過去テロリストが超小型爆弾を水着に隠して自爆したことがあるからだ。
ノブヨが抱きついたのに装甲機動服が強制排除しようとしないのは、「非武装の民間人がパニックを起こして抱きついている」と人工知能が判断しているからである。
ノブヨは抱きついたまま装甲機動服の背後に回り込んだ。
装甲機動服の背中をノブヨは拳で殴った。
装甲機動服は脱力したように止まった。
「民間に払い下げられた時に背中に備えられた強制停止ボタンはそのままだったな」
ノリオはホッとした。
だが、それは早かった。
黒いスーツに黒いサングラスの数名の男たちが拳銃を手にして部屋に入って来た。
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