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第五話 仮想現実訓練室 その2

ノリオは仮想現実訓練室の中に入った。


旧暦の二十一世紀の仮想現実が実用化された当初はゴーグルなどを身につける必要があったが、跳躍暦百五十年にはその必要はない。


ノリオの目の前を少し懐かしい光景が繰り広げられていた。


大量の桜の花びらが宙を舞っていた。


たくさんの桜の木がある公園に、ノリオは立っていた。


この公園がどこなのかノリオにはすぐに分かった。


地球の日本列島の東北地方にあるノリオの実家の近くにある公園であった。


ノリオが小学生の頃は、母親の手作りの弁当を持って花見をするのが家族の毎年の恒例行事であった。


桜が咲き誇る時期には、この公園は花見客で常に一杯であったが、ノリオが見たところ公園は無人であった。


(この公園を仮想現実で再現して、艦長はどういうつもりなんだ?)


「あの……、ノリオ・大原さんですよね?」


背後から聞き覚えのない女性の声で呼ばれて、ノリオは振り向いた。


目に入った光景にノリオは固まってしまった。


桜の花びらが舞い散るなかを美しい少女が立っていた。


その和服を纏う少女は桜に宿った精霊のようであった。


しかし、ノリオは、その少女に見覚えがあった。


「あの……、サクラコ・小川さんですか?ノブヨ・小川艦長のご親戚の?」


「はい、そうです。ノブヨおば様の紹介で、ここに来ました。よろしくお願いします」


サクラコはノリオに向かって深々とお辞儀をした。


ただ、それだけの所作だが、地球の日本列島では絶滅危惧種の大和撫子を彼女から感じた。


「ノリオ・大原です。こちらこそ、よろしくお願いします」


挨拶を返しながらノリオは少し混乱していた。


(なんで、サクラコさんが、ここに?新大江戸星系に入って、数時間しか経っていないのに!?新大江戸星系唯一の可住惑星の『新大江戸』にいるはずのサクラコさんが、どんなに速い宇宙船に乗ったって、こんな短時間に、ここに来れるはずが……)


少し考えて、ノリオは答えを出した。


(ああ、そうか、このサクラコさんも『仮想現実』で本物じゃないんだ。きっと艦長が本物のサクラコさんとのデートのための『訓練』をさせようとしているんだな)


ノリオは和服に覆われたサクラコの艦長と同じくらい豊かな胸を見た。


(仮想現実なんだから、彼女の胸を近くでジロジロ見ても大丈夫だよね?)


ノリオはサクラコに向かって足を踏み出そうとして慌てて止めた。


(危ない!危ない!外部から艦長がここをモニターしているか、艦長が『透明人間』になって、すぐ側にいる可能性もある。とにかく健全なデートをしよう!)

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