第四十八話 カグヤ・シティ その3
「ヒーローショー面白かったね。ハナちゃん」
ノリオはハナに話し掛けた。
ハナはなんとなく不満そうな表情をしていた。
「あの……ハナちゃん。もしかしてつまらなかった?」
ハナは首を軽く横に振った。
「いいえ、やはり仮想現実ではなく実際の人間の役者さんたちが演じているのを生で見るのは良いものです。月の低重力の環境を利用しての飛んだり跳ねたりのアクションはここでしか見られません。演技の勉強にもなります」
「でも、何だか不満そうだけど?」
「カグヤレンジャーの皆さんが助けに来るのが少し早かったです。もう少し遅ければノリオお兄ちゃんに抱き締めてもらえたのに……」
「はは、そうだね」
「ノリオお兄ちゃんは欲が薄いみたいですね。せっかくラッキーパーソンになれたのですから?ノリオお兄ちゃんの好きな漫画やラノベのようにハーレムを現実で楽しんでもよいのではないですか?」
「僕がラッキーパーソンになったのは、宝くじで一等に当たったようなものだからね。宝くじで一等に当たって大金を手に入れて有頂天になった人がどうなったかを間近で見ているからね」
「それは、ノリオお兄ちゃんのお父さんのことですか?」
ハナが少し真剣な表情になった。
ノリオも少し真剣な表情で返した。
「やっぱり、ハナちゃんは僕の個人情報を詳しいことまで知っているんだね?」
「はい、隠してもしかたありませんから言いますけど、あたしたち天華人民帝国はラッキーパーソンになったノリオお兄ちゃんのことに注目しています。あたしたちの所に望んで来てもらえればそれが一番ですから。そのためにあたしたちの情報部はノリオお兄ちゃんに関するあらゆる情報を調べています」
「僕のお父さんのことについては、どれくらい知っているの?」
「情報部からの報告書によると、宝くじで一等に当たって、普通に生活するのならば一生困らないぐらいのお金を手に入れたのですが、酒とギャンブルと女に使い果たした典型的なダメ人間……あっ!すいません!」
ハナはノリオに向かって頭を下げた。
「ハナちゃん。謝らなくていいよ。本当のことだから。近所の人たちからも『ダメ人間』って散々言われたから。でも……」
ノリオは頭の中にある少し古い記憶を掘り起こした。
「宝くじに当たる前は、平凡な市役所の職員で、特に趣味もなく、家に帰って風呂上がりに飲む一杯のビールが唯一の楽しみな人だったよ。でも、宝くじで一等に当たって変わってしまったんだ。ハナちゃん。続きを聞きたい?もう知っているだろうけど?」
「はい、ご迷惑でなければ、本人から直接聞いた情報は貴重ですから」
ご感想・評価をお待ちしております。




