第四十三話 天華人民帝国 の工作員 その1
その後、そのエリート士官は人民解放軍を除隊し、アイドルグループ天華人民帝国を警備する警備会社に再就職している。
その途中経過については不明である。
惑星C1に派遣された人民解放軍のエリート士官たちは、このようにして引き抜かれていき、惑星C1駐留の人民解放軍は骨抜きになった。
補充のため新たなエリート士官を地球の中国本土から送っても同じ結果になってしまうのだ。
結局、天華人民帝国は独立宣言はしなかった。
C11星系が、いつの間にか誰からともなく「天華人民帝国」と呼ばれるようになり、C1惑星も「天京」と呼ばれるようになっていた。
惑星住民への公共サービスも「天華人民帝国」の運営がすべて行うようになり、現地の中国共産党の組織は形骸化している。
実質的に「天華人民帝国」の独立は達成されたのだった。
……というような記憶促進装置で覚えた一般常識をノリオ・大原は思い出していた。
「艦長。天華人民帝国の工作員が『ラッキーパーソン』の僕を狙ってくるのは分かるんですけど、来るのが速すぎませんか?」
ノリオの質問にノブヨ・小川は答えた。
「工作員はもともとイベントのために、この惑星新大江戸に来ていたんだ」
「イベントって、アイドルグループの天華人民帝国が、ここに来ているんですか?」
「そうだ。グループの一つがここに来ていて、そこから人員を割いてノリオに向けたようだ」
「じゃあ、工作員って、天華人民帝国の警備員なんですか?」
ノリオは恐怖に震えた。
ノリオはアイドルグループ天華人民帝国の映像を見たことがある。
彼女たちのドキュメンタリー映像で、警備員にスポットを当てた物があった。
アイドルたちのライブ・移動中・宿泊場所を警備しているのは専用の警備会社で、ほとんどがロボット警備員であるが、それを指揮するのは人間の警備員だ。
人間の警備員は軍隊の特殊部隊並みの訓練を受けた男たちだった。
「僕は航宙自衛隊の隊員と言っても基礎的な訓練を受けただけですし、艦長は白兵戦のプロですけど一人だけですし、サクラコさんの戦闘能力は知りませんけど、大勢の警備員が僕を襲って来たら、どうしようもないんじゃないですか?」
「ノリオ。誤解しているようだが、君を狙っているのは大勢の警備員ではない」
「それなら何が……」
「来てしまったようだな」
小川艦長が視線を向けた方にノリオも向くと、そこには人型ロボットに担がれた駕籠があった。
駕籠から降りてきたのは、赤毛を左右でまとめたツインテールの髪型をした十歳ぐらいの女の子であった。
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