第四十二話 天華人民帝国 その12
映画では、旅芸人の少女と貴族の将校はひそかに付き合い始める。
この世界では旅芸人は社会的に低く見られる立場であり、貴族の将校と付き合うことは世間的に認められないからだ。
旅芸人の少女も貴族の将校も周囲に正体がバレないように変装して逢瀬を重ねる。
周囲に秘密だからこそ二人にとって刺激的になり、楽しい日々が続いた。
だが、それも終わりを告げる時が来る。
旅芸人の一座は他の町に移動することになり、貴族の将校は都に栄転することになったからだ。
貴族の将校は旅芸人の少女に結婚を申し込んで、一緒に都に行こうとする。
たが、少女はそれを断った。
将校が理由を聞くと少女はこう答えた。
「私が幼い頃亡くなった母も旅芸人でした。母は若い頃、あなたのような貴族に見初められて都に行きましたが、貴族の家族に反対され別れるしかありませんでした。母は結局旅芸人に戻り、旅芸人の父と結婚し生まれたのが私です。亡くなった母は幼い私に『貴族と恋愛なんかするか』と何度も言っていました」
それなら何故、貴族である私と付き合ったんだ?と尋ねた答えはこうだった。
「恋をする理由なんてありません。あなたに一目惚れでした。恋なんて元々自分勝手なものです。あなたとお付き合いしている時は本当に楽しかった。でも……」
少女が一度言葉を切り、真剣な目で貴族を見た。
「真剣にあなたを愛してしまったんです!愛とは自分のことより相手のことを考えるものです。あなたとこのまま付き合ったら、私はあなたの人生を駄目にしてしまう!だから別れるんです!」
少女の目から一筋の涙が流れた。
二人とも背を向けて振り返ることなく別れて映画は終わる。
エリート士官とアイドルは映画の後、レストランで食事をした。
そこでアイドルがエリート士官にこう尋ねた。
「ねぇ、あなたと私が映画みたいになったら、どうする?」
「映画みたいとは?」
「映画の中の二人みたいに『道ならぬ恋』におちたら、どうするの?」
「今の世の中はあの映画みたいに『身分違いの恋』なんてあり得ないだろう」
「それも、そうね。第一、私たちそんなに本気でお付き合いしているわけじゃないし」
そのアイドルの言葉に、エリート士官は少しムッとした。
「君の方から私をナンパしたんじゃないか?」
「それじゃあ、私と本気で付き合ってみる?」
アイドルは小悪魔のような笑顔をエリート士官に向けた。
エリート士官は深みに嵌まっていくのを感じたが、重要な情報源である彼女を失うわけにはいかないので、付き合い続けた。
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