第四話 仮想現実訓練室 その1
画像の和服を着た少女は小川艦長の言う通り、小川艦長によく似た美少女であった。
小川艦長はかつて航宙自衛隊陸戦部隊に所属していて、アメリカ宇宙軍宇宙海兵隊との近接格闘訓練で負け知らずだった猛々しい感じのする美女であるが、画像のは儚げな感じのする美少女であった。
ベッドに横になって、ノリオは考えていた。
(顔の目・鼻・口などのパーツはソックリなのに正反対の印象の人っているんだな。名前は『サクラコ・小川』さん。しかし、こんな美少女とデートできるのは嬉しいけど、年齢イコール彼女いない歴の僕はいったいどうすれば?当然デートはしたことないし、それどころか中学・高校とクラスの女子と話したこともほとんどないのに……)
ノリオが手にしている携帯端末にメールが着信した。
小川艦長からのメールで「仮想現実訓練室のドアの前に十五分後に来い。ドアが中から開いたら入って来い」とのことであった。
約十分後、ノリオは宇宙護衛艦「しなの」艦内にある仮想現実訓練室のドアの前にいた。
訓練で「命令された開始時刻の五分前に準備を終えていること」が刷り込まれているので、ノリオは小川艦長の指定した時刻の五分前に目的地に着いた。
旧暦の二十一世紀頃からある仮想現実は、商業ゲームや子供向きの教育ソフトなども使われる一般的な技術である。
跳躍暦百五十年では、仮想現実でつくられた空間では視覚や聴覚だけでなく、嗅覚・味覚・触覚などの五感すべてがリアルに感じられる技術は確立されている。
それによって、仮想現実に理想の世界をつくって、そこから出て来ない人間が続出し、「仮想現実依存症」が社会問題になっている。
そのため、一般的な仮想現実の使用には色々と制限があり、時間制限や五感の一つをワザと設定しないなどして、「これは現実ではない」と使用者に分からせるようになっている。
(でも、航宙自衛隊の訓練用の仮想現実には、ほとんど制限が無いんだよな。だからこそ、大昔だったら数年はかかった訓練が、一カ月で可能になっているんだろうけど)
月のカグヤ・シティにある航宙自衛隊基地で、ノリオが新隊員として仮想現実で受けた訓練は、彼にとっては苦い思い出であった。
(艦内火災で『焼死』するとか、無人の小惑星基地に一人で取り残されて『餓死』するとか、何度、『死亡』したか……、『痛み』や『苦しみ』が本物としか思えなかった。一歩間違えればトラウマだな。しかし、艦長は、どんな仮想現実を用意しているのだろう?……『決闘場』に『剣や銃』が用意してあって、『私の親戚の娘のデートの相手にふさわしいか試してやる』という感じで艦長と決闘することになるあたりかな?やれやれ、何度『死亡』すれば許してもらえるかな?)
ドアが中から開いた。
ノリオは仮想現実訓練室に入って行った。
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