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第三十九話 天華人民帝国 その9

 もともと男社会であった軍隊では女性の入隊・昇進を忌避する傾向があったが、ロボット歩兵により陸軍の人手不足が解消されると、その傾向が強くなった。


 中国人民解放軍では、陸軍への女性の入隊が拒否されるようになったわけではないのだが、昇進のスピードが男性に比べて遅くなるようになったのだ。


 もちろん、女性軍人は陸軍上層部に対して抗議したが、陸軍上層部の回答は「女性差別ではなく昇進は個人の能力評価であり、たまたま現在陸軍に所属している女性の能力が劣っているだけである」というものだった。


 それに対して女性軍人は陸軍上層部に対してさらに抗議……しなかった。


 陸軍から宇宙軍への転籍を希望したのであった。


 西暦の二十一世紀前半に先進国で建軍されるようになった宇宙軍は、当初は弾道ミサイルや人工衛星などを管理する組織だったが、現在では「宇宙軍」という言葉から誰もが連想するように「宇宙戦艦」を運用する組織になっている。


 人民解放軍宇宙軍は、陸海空軍よりも女性に対して開かれた組織になっており、女性軍人は陸軍で待遇改善の運動をして長い時間をかけるよりも宇宙軍で新たな道を進むことを選んだのであった。


 実際に宇宙軍では女性の昇進は速く、宇宙軍総司令官に女性がなるのも珍しくない。


 中国で軍での出世を望む女性は、宇宙軍を志願するようになった。


 その結果、中国で陸軍を志願する女性は皆無となり、陸軍は男社会化がますま進んだ。


 これが人民解放軍陸軍にエリート士官が男性しかいない理由である。


 C11惑星に赴任したエリート士官は女性に対する欲求不満を解消するために「情報収集」の名目で「天華人民帝国」に所属する女性アイドルと付き合うようになったのだ。


 当初は、人民解放軍上層部はこれを密かに奨励していた。


 本音の動機はどうあれ天華人民帝国のメンバーと付き合うことで内部情報を手に入れることができるし、天華人民帝国のメンバーは規則として「恋愛禁止」なので、それを逆手に取り機密情報を手に入れることができるかもしれないからだ。


 人民解放軍上層部が……いや、中国共産党上層部が最も求めている情報が、天華人民帝国の「運営」についての情報なのだ。


 運営の下部組織の現場スタッフについては分かっているが、指導部はどんなメンバーなのか指導者はどんな人物なのかは公表されていないからだ。


 表向き公表されている人物はいるが、調査によりそれはダミーだと分かっていた。


 エリート士官はハニートラップを警戒して情報収集をするつもりでいたのだった。

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