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第三十五話 天華人民帝国 その5

 結果から言うと、アイドルグループ「天華人民帝国」の北京でのライブは大盛況のうちに終わった。


 警戒をしていた中国共産党上層部は拍子抜けした。


 彼女たちは一切の政治的発言をすることはなくC11惑星に帰って行ったからだ。


 たが、彼女たちが帰った後にC11惑星では徐々に変化があらわれていった。


 まず、最初にあらわれた変化はC11惑星の北大陸の住民全員が水道料金を突然支払わなくなったことだった。


 水資源に乏しい北大陸では生きるためには海水淡水化施設は必須であり、そのすべては中国共産党の管轄下にある。


 水道料金を支払わないということは自殺も同然であり、現地の中国共産党のエリートたちは疑問に思いながらもマニュアル通り督促状を送った。


 だが、通告した期日が過ぎても誰も水道料金の支払いをすることはなく、マニュアル通りに水道を止めた。


 しかし、北大陸の住民の生活には何も変化はなかった。


 住民の生活用水だけではなく、大量に水を必要とする工場も通常通り稼働していた。


 北大陸では水道施設は開拓当初はすべて中国共産党の管轄下にあったが、住民が増えるにつれて自費で水道管などを建設する住民も多くなり、経費節約のため中国共産党が管轄するのは沿岸部にある海水淡水化施設だけになっていた。


 水の供給元さえ抑えておけば北大陸における水資源はコントロールできると考えていたからだ。


 ならば、北大陸の住民は新たな水の供給先を得たことになる。


 中国共産党が調査したところ正体が判明した。


 北大陸の地下には広大な湖が存在しており、住民たちは採掘中にそれを発見し、極秘裏に新たな水の供給先としていたのだ。


 中国共産党はただちに地下湖を管轄下にしようとした。


 もちろん、住民はそれを拒否した。


 住民は中国共産党との契約書を盾にした。


 契約書の内容は「北大陸での採掘された鉱物資源はすべて中国共産党に売却すること」となっていた。


 言い替えれば「水資源」については何の規定もないのだ。


 中国共産党は地下湖を武力制圧することも考えたが、それは難しくなっていた。


 アイドルグループ「天華人民帝国」が地球でも注目されるようになってから、地球から大勢のマスコミやファンがC11惑星を訪れるようになっていた。


 地下湖を会場とした「天華人民帝国」のライブも開催されて、地下湖がファンの「聖地巡礼」の場所となってしまった。


 中国共産党はアイドルグループ「天華人民帝国」を取り締まろうとした。


 彼女たちは違法な抗議活動などをしているわけではないので、車が来てない横断歩道を赤信号で渡ったなどの「微罪逮捕」をグループの数名にした。


 それが新たな火種になった。

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