第三十三話 天華人民帝国 その3
女性アイドルグループ「天華人民帝国」の運営の正体は、中華人民共和国からの独立運動をしているグループであった。
彼らは普通に独立運動をしては、中国共産党により潰されてしまうと分かっていた。
だから、表向き女性アイドルグループとして活動を始めたのだ。
アイドルグループとしての「天華人民共和国」のリーダーは「皇帝」と呼ばれ、「帝国民」と呼ばれるファンによる人気投票によって決められるようになっている。
西暦の二十一世紀頃、地球の日本にあった女性アイドルグループのファンによる選挙を参考にしているが、違いはある。
参考にしたアイドルグループはコンパクトディスクと呼ばれるそのアイドルグループの音楽の記録媒体を購入し、それに同封されている投票券がなければ投票できなかったが、「天華人民帝国」は、ファンが名前・住所・住民登録番号などをSNSで登録するだけで投票可能であった。
これには運営の隠された考えがあった。
惑星C11の住民についてのデータは中国共産党が独占していた。
それを「天華人民帝国」の運営はファンからの登録ということで手に入れようとした。
もちろん、「天華人民帝国」の主なファン層は男性の若者であるが、それ以外の住民のデータは次のような手段で手に入れた。
ライブのチケットは抽選でなければ手に入らず。転売禁止であった。
しかし、例外として同じ住所に住む家族のデータを事前に登録しておけば、家族ならば誰でもチケットは使用可能であった。
こうして、天華人民帝国の運営は住民のデータを手に入れていった。
中国共産党は、「天華人民帝国」を「独立運動の偽装組織ではないか?」と当初は警戒した。
しかし、彼女たちが歌う曲のほとんどは恋愛をテーマとしており、政治的なメッセージはまったく無かった。
政治的な活動と言えるのは、「皇帝選挙」を行うライブ会場で、グループのリーダーである皇帝が決まると、会場にいるファンが一斉に「皇帝陛下!万歳!」と唱和することぐらいであるが、あくまで「ネタ」だとされていた。
ちなみに、女性アイドルなのに「女帝」ではなく「皇帝」である理由は、中華文明圏では「女帝」のイメージが悪いからとされていた。
中国共産党は、天華人民帝国に対する警戒は低くなりながらも監視は続けた。
その監視業務で、監視員が「関連情報の収集」という名目でアイドルグッズを公費で買いまくり、その方が中国共産党内部で問題になったくらいである。
発足して数年後、天華人民帝国は全人類の故郷である地球でのファーストライブをすることになる。
そこが大きな転換点であった。
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