第三十二話 天華人民帝国 その2
C11惑星の北大陸の主な産業は鉱工業であった。
地球では大規模な機械で地下深く採掘しなければ鉱物資源は得られなくなっていたが、C11惑星は鉱脈が地表に露出しており、人間がツルハシで掘るだけで採掘可能であった。
中国共産党はコストを下げるため、C11惑星では低賃金労働者に人力で採掘をさせていた。
地球では人工知能による機械による採掘が主流であり、鉱山には管理者以外の人間はいなくなっていたが、C11惑星では鉱山に肉体労働者が復活したのだ。
採掘を人間が人力でやるのは地球ではコスト的に見合わないのだが、C11惑星では採算がとれるのだ。
低賃金の肉体労働であったが、衣食住最低限の生活は保障されており、地球で難民だった頃よりはましな生活なので不満は当初は少なかった。
しかし、北大陸に移民してから数十年経つと、いっこうに上がらない生活水準への不満が住民たちに蔓延した。
C11惑星を統治する中国共産党のエリートたちは住民の不満に答えようとはしなかった。
地球の中国本土から派遣されているエリートたちにとっては「中央から高い評価をされて北京に戻り出世する」のが目的であり、高い評価をされるためには「北大陸の住民を可能な限り低コストでこきつかう」のがエリートたちにとっての常識であった。
北大陸の住民たちは生活水準の向上のために何度も交渉したが、北大陸の住民は中国共産党により意図的に民族ごとに分散して居住地があるため、団結ができなかった。
反抗しようにも食糧生産地は南大陸であり、水資源に乏しい北大陸で必須な海水淡水化施設も中国共産党に握られていた。
生存に必須な食糧と水を握られている北大陸の住民たちは永遠に隷属下に置かれるのかと思われた。
それが変化したのはSNSでのある出来事であった。
中国共産党は住民の不満のガス抜きのためにC11惑星での娯楽としてのSNSの利用は奨励していた。
SNSは常に監視されており、政治的なものはただちに削除され、投稿者は逮捕・投獄されることもあった。
ある時、「天華人民帝国」を名乗るグループの動画が投稿された。
中国共産党のエリートたちは「反政府グループ」かと警戒したが正体を知って安心した。
それは北住民の素人の若い女の子たちが結成したアイドルグループであった。
ファンを「帝国民」と呼び、帝国民の投票によって選ばれるグループリーダーを「皇帝」と呼んでいる。
北大陸の住民は多民族のため様々なタイプの美少女が所属しており、たちまち北大陸だけでなく南大陸でも大人気となった。
それが、本当に「天華人民帝国」が建国される始まりになると考えていたのは、天華人民帝国の運営だけだった。
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