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第三十話 サクラコ その7

 ノリオとサクラコの乗る人力車は人気のない路地に入った。


 人力車を引いていたアンドロイドは両手で自分の頭部をつかむと、仮面のようにそれをはずした。いや、本当に仮面だったのだ。


 露になった素顔は、日本国航宙自衛隊宇宙護衛艦「しなの」艦長であるノブヨ・小川であった。


「さすが我が小川一族の者。サクラコ。よく私だと気づいたな」


「ノブヨおば様が私とノリオくんを監視していないわけないものね。それよりも、ノブヨおば様。ノリオくんのことをどう思っているの?」


 小川艦長はあっさりと答えた。


「もちろん、真剣なお付き合いをしたいと思っているぞ」


 小川艦長の口から出された言葉はノリオを硬直させた。


「ん?どうしたの?ノリオくん。固まっちゃって?」


 サクラコの声にノリオはようやく反応した。


「あ、あの、今、艦長は僕と付き合いたいとおっしゃったように聞こえたんですけど?」


「キミの耳は正常だ。確かに私はそう言った」


「えっ!?何でイケメン・エリートとは正反対の僕なんかと……ああ、考えるまでもありませんでしたね。僕が『ラッキーパーソン』だからですね?」


 小川艦長は首を軽く横に振った。


「いや、キミがラッキーパーソンになる前、キミが宇宙護衛艦『しなの』に配属されて初めて顔を合わせた時に、私はキミとお付き合いしたいと真剣に思ったんだ」


「えっ!?ですが、僕に気があるようなそぶりは全然見せなかったじゃないですか?」


「私は仕事とプライベートは分ける主義だ。キミと顔を合わせるのはほとんど勤務中だったからな。告白する機会が無かっただけだ」


「でも、サクラコさんのことを艦長に相談したら。『付き合った方がいい』とおっしゃったではないですか?」


「あれはキミが部下として上司の私に相談したのだろう?私はキミの上司でキミの母親と同じくらいの年齢なんだ。世間一般の常識としてはサクラコとの交際をすすめるだろう。だが、私の本心としては繰り返しになるが、キミと真剣にお付き合いしたい」


「ですが、何で僕なんかと?顔はイケメンとは程遠いし、勉強も運動も並みの僕を?」


「理由は、私自身にも分からん。私が中学生ぐらいの時、異性を意識し始めた頃からキミみたいのがタイプなんだ。私の方から告白しても毎回断られていたがな」


 ノリオは事情が分かった。


 おそらく告白された男たちは冗談だと思うか、気後れしてしまったのだろう。


「ん!?どうした?副長。緊急事態!?分かった!こちらで対応する!」


 惑星新大江戸の衛星軌道上で待機している宇宙護衛艦「しなの」から小川艦長に通信が届いた。


「ノリオ・大原二等宙士!緊急事態だ!天華人民帝国の工作員がキミを狙っている!」

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