第二十八話 サクラコ その5
惑星「新大江戸」は、新大江戸星系にある唯一の可住惑星である。
その地表にある星系首都(日本の国内法では県庁所在地)の都市名は「新大江戸市」となっている。
星系名と惑星名と星系首都名が同じなのは現在ではややっこしいのだが、植民初期は地表にある都市は新大江戸市だけであったので、そう名付けられた。
何度か首都名を改名する提案がされているが、その度に反対意見の方が多いので、そのままになっている。
航宙自衛隊宇宙護衛艦「しなの」の乗組員であるノリオ・大原二等宙士は新大江戸市にある県庁の庁舎の前に立っていた。
新大江戸県庁庁舎は、地元住民からは「お城」と呼ばれている。
天守閣があり、石垣があり、水堀で囲まれた日本式城郭の形をしている。
「ノリオくん、『お城』のモデルになっているのは、地球の日本列島の戦国時代にあった安土城からなんだよ。安土城をつくったのは誰だか知っている?」
「大工さん……だなんて使い古された答えじゃないですよね?サクラコさん」
「当たり前だよ。西暦の二十世紀後半にテレビのクイズ番組で使われたネタじゃないんだから」
「正解は織田信長ですよね?」
「そうだよ。でも、実物は本能寺の変の時に焼失しているから、歴史研究者の皆さんが長年研究した復元想像図を元にしているんだ」
「でも、一部の歴史マニアからは評判悪いんでしたね?」
「うん、県庁庁舎としての建物だから使い勝手を考えて復元想像図に忠実に作ってあるわけじゃないんだよね。だから、口の悪いマニアの人からは『なんちゃってお城』って呼ばれてるよ」
ノリオはサクラコと一緒に「お城」の近くにいた。
ノリオは私服でティーシャツにジーンズ、サクラコは新大江戸星系の女性の一般的な服装である和服を着ていた。
ノリオは「お城」の周りに広がる市街地、通称「城下町」に目を向けた。
市街地には市の条例で三階建て以上の建物を建てるのが禁じられているため、二階建ての建物の街並みが遠くまで広がっていた。
今日は晴れていて、遠くの新富士山がよく見えている。
「あの『新富士山』、地球の日本列島にある富士山に形が似ているでしょ?この街から見える新富士山の眺めを維持するために、この街では高層ビルの建築が禁じられているの。だから、地下を深く掘って、地下五十階なんてのもあるの」
道路には、これだけ広い都市ならば当然あるべき物がまったく無かった。
自動車が一台も走っていないのだ。
「『地球の古き良き街並みを再現する』ということで、自動車は禁止されているの。それで駕籠と人力車、どっちに乗る?ノリオくん」
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