第二十七話 サクラコ その4
ここは宇宙護衛艦「しなの」の艦内のノリオの個室
サクラコは手に持っていた「カイくんの遠隔操縦装置」であるレバーを部屋の床に向かって放り投げた。
宇宙護衛艦「しなの」の艦内は重力制御装置により地球と同じ重力に調整してあるので、レバーが床に落ちるのが物理の法則では正しい。
しかし、レバーは床に衝突する寸前に「ふわり」という感じで浮き上がり、サクラコの手元に戻った。
「うーん、やっぱり、私のところに戻ってきちゃうんだ」
サクラコはつぶやいた。
「ねえ、ノリオくん、またレバーを持ってみて」
サクラコはレバーをノリオに手渡すと、部屋の隅まで歩いた。
ノリオはレバーを右手で力一杯握った。
レバーは生き物のように震え出してノリオの右手から飛び出そうとした。
「ノリオくん!もっと力出して!レバーが飛び出ないようにして!」
サクラコの声援を受けて、ノリオはレバーをさらに強く握った。
しかし、レバーはノリオの右手から飛び出し、サクラコに向かって空中を移動した。
「うーん、やっぱり駄目かあ。『ラッキーパーソン』のノリオくんにならカイくんもなついてくれるのかと思ったんだけど」
「あの……サクラコさんは『カイくんの飼い主』になったことが『厄介』だと思ってるんですか?」
ノリオの質問にサクラコは驚いた。
「えっ!?どうしてそんなこと言うの!?カイくんはあんなに可愛いんだから、飼い主になれて、私はとっても嬉しいんだよ!」
「誤解していたならすいません。でも、さっきからサクラコさんは、僕にレバーを押し付けようとしているように見えたもので」
「あー、そう見えちゃたんだ。ちょっとした実験をしていただけだよ」
「実験ですか?」
「うん、見ての通り、カイくんのレバーは私にしか持てなくて、他の人に渡すと私のところに戻ってくるの。『ラッキーパーソン』のノリオくんなら例外かと思ったんだけど」
「なるほど」
「ところで、ノリオくん、話は変わるけど、私とお付き合いしてくれない?」
「お、お付き合いって、彼氏と彼女の関係、恋人同士ってことですか?」
「うん、もちろん、そうだよ」
「サクラコさん、僕が『ラッキーパーソン』だから、そんなこと言うんでしょう?」
「うん、そうだよ」
サクラコはあっさりと言った。
「僕がラッキーパーソンになったのは宝くじで一等に当たったようなもので、僕の賞金目当てに付き合おうとするのと同じじゃないですか?」
「お金なら私に持ち逃げされちゃうかもしれないけど、ノリオくんとラッキーパーソンであることは切り離せないんだよ。だから安心してね。それとも私はお付き合いするほど魅力のない女かな?」
ノリオの目には小川艦長にくらべて幼く見えたサクラコが急に色っぽくなったように見えた。
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